宇宙の約30%は暗黒物質とされるが、宇宙の生成や宇宙と物質の成り立ちなど、現在までに解明できた宇宙の謎は約5%に過ぎない。
あらゆる物質に質量をもたらすヒッグス粒子の存在は実証されたが、さらに解明を進めるためには今日の素粒子物理学を超える「新しい物理学」の扉を開く必要があるとされる。
いうなれば今日的「天の岩戸」開きである。
そのためにはビッグバン(宇宙開始時の爆発的膨張)直後の超高エネルギー状態を再現する必要がある。
ヒッグス粒子を大量に生成し、その性質を解明する装置が「国際リニアコライダー(ILC)」である。
この建設・運営には多大の資金と研究協力を要し、多くの国の参加が欠かせない。同時に共同研究する姿は平和の象徴でもある。
一方で、「異文化との直接的な接触機会が限られる日本社会と国民の意識に根付いた閉鎖性は今も払拭されていない」と言われるところからは、日本に誘致されたILCは情報収集の基地となり、正しく「21世紀の出島」である(『産経新聞』平成30年11月18日付、「開国の志」で加速器誘致を)。
理論物理学から実験物理学へ
日本人のノーベル賞受賞者で最も多いのは物理学賞である。
受賞者の第1号は湯川秀樹氏で中間子の存在予測、次いで朝永振一郎氏の量子力学の基礎的研究という理論的貢献であった。
しかし21世紀に入ると、小柴昌俊氏によるニュートリノの検出、梶田隆章氏の同粒子が質量をもつ振動の発見で受賞したように実験物理学に比重が移っていった。
宇宙生成をはじめとする物理現象の理論は大いに進んできたが、そうした理論の正確性の実証が遅れている。
理論の検証が進まなければ、ベースとなる理論の正確性が判定し難い。こうして、今日は理論の実証に重点が移行している。