2等級以上下がると4ヵ月目から低い「標準報酬月額」に

 現在、通勤手当の平均支給額は、事務職の課長クラスで1ヵ月当たり約1万7,000円とのことである(人事院「2019年〈平成31年〉職種別民間給与実態調査」)。仮に、通勤手当1万7,000円を含む合計35万円の給料を受け取っているケースでは、給料額が35万円以上37万円未満の場合に該当するので、標準報酬月額は22等級の36万円とされる。

 ところが、在宅ワークにより、仮に1万7,000円の通勤手当の支給がなくなれば、給料額は33万3,000円(=35万円-1万7,000円)にまで減少する。この場合の「標準報酬月額」は、給料額が33万円以上35万円未満を対象とする21等級の34万円とされる。つまり、通勤手当がなくなったことにより、標準報酬月額の等級が22等級から21等級に下がるわけである。

 このように、在宅ワークが実施された結果として、月々の通勤手当がなくなるといった事態が起こった場合には、標準報酬月額の等級が1~2等級下がるケースが少なからず発生すると推測される。遠距離通勤のために平均よりも高い通勤手当を受け取っている人のケースでは、3等級以上、下がることもあるだろう。

 ただし、厚生年金の標準報酬月額は、給料額が下がった後、直ちに変更されるわけではない。例えば、通勤手当がなくなったことにより、標準報酬月額の等級が2等級以上ダウンする場合には、手当がなくなった月から数え始めて4ヵ月目から、標準報酬月額が変更されることになる。つまり、5月に受け取る給料から通勤手当がなくなったのであれば、4ヵ月目に当たる8月の標準報酬月額から等級が下がるのである。標準報酬月額の低下が1等級の場合は、一般的には、来年の9月の標準報酬月額から変更されるケースが多くなるであろう。

長期的視点を踏まえた制度導入を

 会社から支給を受ける通勤手当は、定期代などに充てられるものであり、従業員が自由に処分できる金銭ではない。そのため、一般的には、通勤手当がなくなったとしても、従業員本人は「給料が減ってしまった」というマイナスの認識を抱きにくいものである。

 それどころか、標準報酬月額の等級が下がることによって厚生年金や健康保険などの保険料負担も下がるため、通勤手当の削減は“嬉しい制度変更”と理解する従業員も多いかもしれない。

 しかしながら、現在、年齢65歳以上の高齢者世帯では、収入の63.6%が公的年金でまかなわれている状態であり(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」)、年金は老後の生活に不可欠な金融資産である。在宅ワークによって、その年金が当初の予定より、多少なりとも減額される可能性があるという事実を知れば、決して“嬉しい制度変更”とは言い切れないのではないだろうか。

 企業が在宅ワークを導入する際には、「将来の年金額にマイナスの影響を与える可能性がある」という長期的な視点も忘れずに検討したいものである。

大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net

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HRプロ編集部

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