中国によるサイバー攻撃はトランプ氏(右)陣営、バイデン氏陣営のどちらにも向かっている(写真:ロイター/アフロ)

(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 9月10日、米マイクロソフトが、ロシア政府や中国政府などとつながりのあるハッカー集団が、11月3日の米大統領選の候補者であるドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン前副大統領の両陣営をサイバー攻撃していると明らかにした。

(外部リンク:https://blogs.microsoft.com/on-the-issues/2020/09/10/cyberattacks-us-elections-trump-biden/

 そもそもこうした攻撃は普段から頻発しているものなので、セキュリティ関係者の間では意外性も驚きもない。ただ米大統領選を狙って、ロシアや中国からの攻撃が現実に起きているのは確かで、それを周知すること自体は意味があると言えよう。

サイバー攻撃のビッグフォー

 サイバー攻撃を駆使して、米国の選挙などを狙ってくるのは、米情報関係者らが「ビッグフォー」と呼ぶロシア、中国、イラン、北朝鮮の4カ国である。そして、その中でもとりわけ米国が最近、警戒を強めているのは、中国だ。その攻撃の多さ、強さは、2016年のブレグジット国民投票や米大統領選などで暗躍したロシア以上だと言ってもいい。米中関係は現在、最悪の状態にあるが、サイバー空間でもそれは同じなのだ。

 大統領選を控えた米国側から見たサイバー空間における「争い」について見ていきたい。

 冒頭のマイクロソフトの報告書にあるように、米大統領選を狙ったロシアや中国のサイバー攻撃が激化しているのは間違いない。

 ただ現実には、米大統領選への攻撃は、2016年の大統領選以後は、対策がかなり進んでいる。その証拠に、16年の大統領選ではロシアからの攻撃を中心にかなり大規模なサイバー攻撃やSNSなどを使った情報工作が繰り広げられたのだが、2018年の米中間選挙以降、そうした攻撃はアメリカ側がかなり阻止できるようになっている。

 その最大の理由は、16年の反省を踏まえ、米国内で対策に当たる「層」が厚くなり、オフェンシブなサイバー攻撃が活発に行われるようになったからだ。例えば2018年、ドナルド・トランプ大統領はサイバー軍を独立した統合軍に格上げして軍が自分たちの裁量で攻撃を行えるようにした。また米軍屈指のハッキング集団を抱えるNSA(国家安全保障局)も2019年末に新たなチームを作って選挙へのサイバー攻撃に対峙している。

 さらにトランプはCIA(米中央情報局)にもサイバー空間で活発に攻撃などが行えるよう、大統領令に署名。それによって、CIAもそれまで以上に、積極的にサイバー工作を行えるようになっている。選挙などのタイミングで攻撃を企ててくるのが明確なロシアなどに対しては、かなりオフェンシブなカウンター攻撃も行なっている。

 またSNSの情報工作に対しては、フェイスブックやツイッターなどSNS運営側も、フェイクニュースや偽アカウントを監視して削除しており、そうした民間の協力も奏功していると言える。