(吉田 典史:ジャーナリスト)
新型コロナウイルスの感染拡大は「ピークを過ぎた」といった声があるが、国民の不安は依然消えない。これを機に在宅勤務を本格的に試みる企業が増えている。だが、導入は難しいとかねてから考えられてきた業界がある。
その1つが、損害保険代理店(以降、代理店)だ。顧客との契約書や申込書の書類が多く、処理に膨大な時間がかかるためだ。そのうえ、社員数や売上の規模が小さく、おのずと限界がある。IT環境を整えるための予算が中堅、大企業に比べて少なかったり、常駐のシステム担当者が不在の場合があるからだ。さらに、顧客との間では依然としてファクスを通じてのやりとりも多い。それでも、在宅勤務に果敢に取り組む代理店がある。今回は、その企業に取材を試みた。
意外な盲点だった「在宅でのスキャン」
ピー・アール・エフ(東京都新宿区)は主に企業や個人の財務のリスクマネジメントや損害保険のコンサルティングを手掛けている。現在、社員は12人。政府が緊急事態宣言を発令した4月8日から、非常時の勤務シフトにした。
まず、全社員参加のミーティングを開き、在宅勤務をする場合の問題点や課題を抽出した。それ以前に、在宅勤務をした社員はいない。意見が多かったのが、書類の扱いとそれらへの押印。そして、多数の書類が会社に郵送されてくることへの対応だった。
問題意識を共有したうえで、社員を大きく2つにわけた。1つは、営業の5人。全員が、自宅での在宅勤務(5月31日まで終日)をするようにした。一方で週に数回、出社をするのが役員2人、CSR(顧客対応)2人、総務2人の計6人。6人は過密な状態を防ぐために、2~3日に1回のペースでローテーションを組み、出社した。ほぼ毎日、顧客から大量の契約書や申込書が郵送もしくはファクスで届くためだ。