意外なところで覗かれている暗証番号
金融のデジタル化の進展でカードの不正使用(詐欺)は増えている。2016年に米国の金融リサーチ会社Aiteグループが20カ国(日本は対象外)での調査をもとに発表したレポートによると、メキシコでは56%の人がカード(デビットカード、クレジットカード、プリペイドカード)の詐欺を経験しているという。ブラジルでは49%、米国では47%、シンガポールは36%、英国は29%である。
クレジットカード詐欺に遭わないようにするためには、カードをスキミングされたりしないよう、常に手元に置いておき、カード情報を他人に知られないようにするのは当然のことだ。通販サイトなどでは、クレジットカード情報を保存せず、利用の都度入力するようにすれば、漏洩リスクを減らすことができる(あくまで面倒でなければだが)。
暗証番号を入力するとき、他人に見られないように気を付けることも重要だ。筆者は去る1月にナイジェリアに取材旅行に行き、ホテルをチェックアウトするとき、カードで代金を支払い、フロント係が暗証番号の入力を見ないようにしていたので、キーパッドを手で隠さずに入力した。するとそばにいた取材のアテンドをしてくれた日本企業の駐在員に「黒木さん、そういうふうにやると、暗証番号を盗まれますよ」と言われた。「えっ、どうしてですか?」と訊くと、天井を指さし、「あそこに監視カメラがあるでしょ。あれで見られるんですよ」と言う。見上げると確かに天井に監視カメラが設置されていて、キーパッドが丸見えだった。
カードの使用明細が送られてきたときは、きちんと内容をチェックし、不審なものがあれば、直ちにアクションを取ることも大切だ。クレジットカード会社から小売店への代金支払いは、毎月15日締めの月末払いと、月末締めの翌月15日払いのような、月2回の支払いで行われているケースが多い。利用者が早く不正を通報すれば、クレジットカード会社の被害やそれを補償する保険会社の被害も防ぐことができる。筆者の875ポンドのケースも、カード発行会社はスペインのチケット販売会社への支払いを止められたはずだ。
クレジットカードがらみではないが、筆者はかつて、旧三和銀行(現三菱UFJ銀行)が入院中の脳梗塞患者に立会人もつけずに6億円の住宅ローンなど巨額の融資を行うという事件に巻き込まれ、『貸し込み』という作品に書いたことがある。大金持ちの債務者の家族は、銀行から送られてくる預金取引や融資の明細を長年にわたって放置し、預金の残高がなくなって初めて融資に気づいたという杜撰な事件だった。それ以来、筆者は、銀行やクレジットカード会社から送られてくる通知はその場で開封するようにしている。
インターネットの発達と金融のデジタル化で、生活は便利になった。同時に、詐欺や不正に遭う可能性も高くなり、これまで以上に注意と早期の対応が必要な時代になったということだろう。