2019年4月に施行された「働き方改革関連法」では時間外労働の上限規制や労働時間把握の義務化など従業員の労働時間に注目が集まりましたが、高度プロフェッショナル制度の導入やフレックスタイム制の拡充など、労働時間に関して従業員の裁量を高める内容も含まれています。多様な働き方の実現とそれを支える従業員の健康管理のあり方に関する法令が整備され始めた今、改めて管理の目的を整理し、それを支えるデジタルツールを整備する必要があります。

健康管理を目的とした労働時間の上限規制と管理へ

「働き方改革関連法」以前は、管理監督者やみなし労働時間制(裁量労働制等)の従業員については、厚生労働省の「労働時間管理に関するガイドライン(※1)」の対象とはされていませんでした。これらの従業員は、法定時間外労働における割増賃金の支払い対象外(※2)となるため、管理監督者らの労働時間管理については把握していなかった企業もあるかもしれません。しかし現在は、新労働安全衛生法において高度プロフェッショナル制度適用者以外の労働時間管理は会社の義務となっています(※3)。日本では過去に、いわゆる「名ばかり管理職問題(割増賃金未払い問題)」や、長時間労働による過労死などが発生しており、健康管理の観点で、時間管理の対象範囲を管理職(管理監督者)やみなし労働時間制の従業員に広げる動きは自然な流れにみえます。

 日本では厳しくなる傾向のある労働時間法令ですが、海外はどうでしょうか。下図は、欧米主要国の労働時間制度と平均年間総実労働時間推移をまとめたものです。

図(上下):欧米主要国の労働時間制度


 欧州主要国においても、すでに健康管理の観点で労働時間の厳しい上限が設けられていることがわかります。なお、各国においての管理職といった適用除外職種に対しての労働時間管理の詳細な実態は把握できていませんが、健康管理の観点であれば、管理職・非管理職に差を設ける必要はないといえます。また、日本も総実労働時間は減少傾向にありますが、2019年4月からの時間外労働時間の上限規制によってその傾向は続くと予想できますので、欧州主要国並みの総実労働時間に近づく可能性もあります。

 なお、米国については時間外労働時間上限や罰則の定めはなく、総実労働時間は日本と比較して4~5%程度高い状況で推移しています。米国では「ホワイトカラーエグゼンプション」という、日本でいう高度プロフェッショナル制度が昔から存在します。労働市場が発達していてジョブベースで自分にあった労働環境や職務を選択しやすい、雇用主と従業員の間で労働条件を詳細に規定した雇用契約を締結し徹底しているなど、長時間労働につながりにくい仕組みが社会として成り立っているといえるかもしれません。

 以上の通り、日本の総実労働時間は減少傾向にありますが、これは1990年後半ころからパートタイム労働者が増加したことが大きな要因のひとつです。長時間労働に関していえば、全産業に占める週間就業時間が60時間以上(単純計算で、月の時間外労働時間が80時間近くとなる可能性がある)の雇用者の割合は、2019年の平均で6.5%(378万人)。10年前の9.5%(510万人)と比較して低下傾向にはあるものの、依然として高い水準です(※4)。

 時間外労働時間が月45時間を超えると、脳や心臓疾患の発症と業務の関連が徐々に強くなるといわれており、80時間を超えた場合は関連が強いと評価されます(※5)。よって、単に労働時間の累積結果を月末に確認するだけでは不十分であり、法の趣旨にのっとって日々の適切な勤務時間管理が必要になります。

※1:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
なお、本ガイドラインにおいても「適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること」とされている
※2:深夜業務は、管理監督者やみなし労働時間制であっても割増賃金の対象となる
※3:「労働安全衛生法」第66条の8の3、および、2018年2月28日基発1228第16号
※4:「総務省統計局2019年労働力調査」より。なお、労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2019」によると、週労働時間が49時間超過就業者の割合は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで、それぞれ19%、19.2%、12.5%、8.1%、10.1%
※5:厚生労働省「過労死等防止啓発パンフレット」