デジタルツールを活用した労働時間管理

 日本における労働時間法制の流れを確認し、社内の労務管理に関する知識と重要性を理解した後は、勤務時間管理ツールを整備し労務管理を推進します。

 労働時間管理で重要なツールは4つに分類できますが、勘所としては、いわゆる法定帳簿としての「出勤簿」ではなく、「勤務実績と予定を把握し、従業員(部下)と働き方について話し合うためのツール」と位置付けることが多様な働き方時代のポイントとなります。

図:勤務時間管理ツール分類

 特に今後必要となるのは、従業員の健康管理(見守り)を効率的・効果的に実現する「モニタリングツール」の拡充です。問題が生じてから対処するようなことにならないよう、リスク検知の観点でモニタリングツールを活用します。

「健康管理」の観点としては、長時間労働の兆候や深夜勤務の有無、休憩時間の未取得といった情報を日次で確認できることはもちろん、上司と部下にリスク状況をメールで送信する(モニタリングツールのURLをプッシュ送信し、ツールの視聴率を上げ、次の気づきにつなげる)といった機能も効果的です。

 また、「見やすさ」の観点では、BIツールといったシステムを活用し、勤務情報をデジタルダッシュボード形式で「何に注意すべきか」をわかりやすく表示したいところです。現在はさまざまなクラウド型BIツールがあり、自社の規模や特徴に合わせた製品の選定が可能です。

総実労働時間の削減は、業務効率化とセット

 現在の日本全体における「総実労働時間(長時間労働)の削減」という流れは、多様な働き方の実現と並行して今後も継続するでしょう。その場合は、企業が総実労働時間削減に向けて所定労働時間や所定外労働時間の低減施策を打ち出すことが考えられますが、あわせて「労働生産性向上施策」も必要となるはずです。

 過去30年で、すでに所定労働時間(日数)は減少傾向にありますので、これ以上の労働時間削減には業務の見直しが不可避であり、業務プロセスのデジタライゼーションが望まれます。ワークフローシステムを活用して業務プロセスの見直しや無駄な工程の削減は進めつつ、どうしても残る定型作業については、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といったテクノロジーを活用して作業スピードを高めることは有効な対策となります。こうした点についての詳細は、また別の機会でお伝えできればと思います。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス ディレクター
茂 陽介

外資系総合コンサルティングファーム、事業会社を経て、2017年9月より現職。コンサルティングファームでは主にHR領域のマネジメントプロセス設計・改善に関するサービスに従事。事業会社では人事企画担当として人材マネジメントに関する制度設計、事業統合やカーブアウト時の制度統合・新設を担当。近年はコンプライアンスと生産性をキーワードとした多様な働き方の実現に関するコンサルティングサービスを専門としている。

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