全員が合意しなければ再開発はストップ
筆者は2016年に上海市虹口区を訪れた。日本人租界があった歴史ある建物が多い街だが、当時、ここも再開発ラッシュが進んでいた(本記事の冒頭の写真)。筆者の友人の家族が住んでいた集合住宅も再開発計画の対象となり、立ち退き交渉が始まった。
立ち退きの条件は、金銭補償もあるが、代替の住宅を補償してもらうケースもある。新しくきれいな住まいを手に入れられることから、立ち退き対象の住民たちは湧き上がっていた。ところが、わずか2世帯が立ち退きに応じなかったために、再開発計画は流れてしまった。中国には、規定の期限内に立ち退き同意の契約率が95%に達成しなければ再開発を中止するという「契約比例法」がある。上海市ではそのときすでに同法に基づいた措置が採られていた。
農村部では、いまだ乱暴な立ち退き強制行為が行われているケースも少なくない。2020年6月、山東省の農村部に住む女性がSNSに投稿した動画に映っていたのは、農道に乱暴に放り出された家財一式だった。暴力的な立ち退きの強制である。
再開発による立ち退きは、こうしたつらい出来事が起きる一方で、巨万の富が突然に転がり込んでくる人生の逆転劇にもなる。上海市長寧区在住の友人は「私の住むこの古びた集合住宅が、1日も早く再開発の対象になりますように・・・」といつも念じている。