(日戸 浩之:東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授)

 新型コロナウイルス感染拡大は、日本経済に甚大な被害をもたらした。一方で、消費者が生活様式の変更を強いられることで、新たな消費スタイルが広がる可能性がある。「モノ消費」「サービス消費」に続く第3の消費形態、「DIY消費」について解説する。

競合と棲み分けの関係にあるモノ消費とサービス消費

 産業構造のサービス化は20世紀に多くの国が経験していることである。世界銀行の統計によると、世界全体で広義のサービス業(第3次産業)に従事している人の比率は1991年では35%だったが、2018年には49%に拡大している。世界全体では働いている人の約半分は広義のサービス業に従事していることになる。日本のサービス化はさらに進んでおり、国勢調査によると日本の第3次産業従事者の比率は1960年時点では38%だったのに対して、2015年には71%と7割に達している。

 マクロでみると、このように主に商品の生産・販売を担う第2次産業から、サービスを提供する第3次産業へのシフトが進んでいることになるが、消費形態を考えてみたときには、商品というモノから人が介在して提供されるサービスへのシフトが単純に進行するということではない。

 確かに商品(モノ)の消費についてみると、多くの耐久消費財などが普及して消費の成熟化が進む今日では、商品の機能的な価値を提供するだけでは差別化が難しく、いわゆるコモディティ化が進み価値提供が難しくなっている。

 例えば美容の分野で歴史を振り返ってみると、化粧や毛髪のセットは、近代以前は自分で行うことに加えて、専門のサービスを受けることもある程度、普及していた。江戸時代には「髪結い」と呼ばれる専門の職人が庶民向けの理美容のサービスを提供し、それが利用されていたのである。それが近代以降は、化粧品、シャンプーなどのトイレタリーの各種商品が低価格で大量生産されるようになり、日々の化粧や毛髪を洗ったり整えることは、その商品を消費することで主として行われるようになった。また家庭で個人での理美容をサポートするようなドライヤー、シェーバーなどの家電製品も技術革新がなされ普及が進んだ。現在では、我々は美容は様々な商品を利用して家庭で個人が行う一方で、定期的に理美容院でサービスを受けるなど、モノ消費とサービス消費を使い分けている。