新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響を受けたプロスポーツ界。だが、ロックダウンが緩和されるに伴って、シーズンの開幕や再開に踏み切る国も出始めている。台湾や韓国のプロ野球は既に開幕、ドイツのサッカーリーグ、ブンデスリーガーも16日に再開した。それでは、スポーツビジネス大国である米国の現状はどうなっているのか。米スポーツビジネスに精通した鈴木友也氏が再開を模索する米国の動きを分析する。(JBpress)
世界のスポーツ界がシーズンを中断してからほぼ2カ月が経過した。私が暮らすニューヨークは米国内でも特に感染者の多い感染震源地(epicenter)で、3月22日に州が自宅待機令を発令して以来、今でも多くの人が息苦しい暮らしを強いられている。米国では、一時は全米50州中42州で外出禁止令が出され、全人口の約96%に当たる3億1600万人が自宅待機を余儀なくされていたが、5月に入り段階的に経済活動を再開する州も出始めてきている。
3月中旬に多くのスポーツがシーズンを中断した米国では、シーズン再開に向けて安全な労働環境の整備や選手への報酬の支払い方法などについて各リーグが労使で調整を続けているところだ。とはいえ、5月15日時点で米国のコロナウイルス感染者数は140万人、死者の数も8万5000人を超え、シーズン再開には極めて慎重な対応が求められている。
セントラル開催を望まない選手側の事情
米国のメジャープロスポーツは、CDC(米国疾病予防管理センター)などの感染症の専門家からアドバイスを受けながらシーズン再開に向けたシナリオの検討を進めているが、概ね以下の3点がどのチームスポーツにも共通する前提条件になりそうだ。これは、米コロナウイルス対策の最高責任者であるアンソニー・ファウチ博士がプロスポーツの再開について言及した際に述べた内容とも整合する。
(1)無観客での試合開催
(2)中立地でのセントラル開催
(3)検査体制の拡充
「(1)無観客での試合開催」は論を俟たないだろう。市民生活でもソーシャルディスタンスが求められる中、観客が競技場に密集して応援するのは現時点では感染リスクが高すぎる。
「(2)中立地でのセントラル開催」は、特定の都市に選手ら関係者を隔離してシーズンを実施するというものだ。宇宙ステーションのように完全に外界と隔絶されたエコシステムを作ることから、このアイデアは「Bubble City」などとも呼ばれている。これは、選手や球団関係者などの安全を確保するための策だ。
プロスポーツ組織の特徴の1つとして、選手の仕事の半分が出張になる点が挙げられる。例えば、米メジャーリーグ(MLB)は年間162試合を実施するが、その半分の81試合は敵地での対戦となるため、全米中を遠征して回ることになる。メジャースポーツでは、移動は基本的にチャーター便になるとはいえ、空港やホテル、試合会場までの移動には公共スペースを使わざるを得ず、感染する/させるリスクをゼロにはできない。
セントラル開催を実現するには、試合の消化に十分な施設があると同時に、選手や関係者をシーズン中にわたり収容できるキャパシティのある宿泊施設が近くにあることが不可欠となる。こうした条件を満たす都市は米国でも限られるが、MLBは春季キャンプを開催しているアリゾナ州やフロリダ州に点在する各球団のトレーニング施設を活用して分散開催する選択肢の検討を進めている。米プロバスケットボール協会(NBA)も、サマーキャンプを実施しているラスベガスや、広大な敷地内にスポーツ複合施設を持つオーランド(フロリダ州)にあるディズニー・リゾートでの開催を検討していると伝えられている。
しかし、選手の中には長期にわたり家族と離れ離れで暮らすことを強いられる計画に賛成しない者もいるようだ。家族との生活を大切にする米国では、単身赴任という形態は一般的ではなく(仕事で長期の単身赴任を強いられれば、米国人の多くは転職する)、選手からの理解を得るには十分なコミュニケーションが必要になりそうだ。