労働者派遣法が改正となり、今年4月から施行されました。各企業の人事担当者は昨年から対応に追われ、やっとの思いでこのときを迎えたのではないでしょうか。今回の改正の大きなポイントは「同一労働同一賃金」です。同じ業務内容であれば、正規雇用者でも非正規雇用者でも同一の賃金を支払う義務があります。派遣法の改正は人事の何を変え、これからどのような影響があるのでしょうか。今回は「After派遣法改正」の社会について考えてみます。
派遣法改正で何が変わるのか?
派遣法改正の背景には、少子高齢化による労働人口減少に歯止めをかけたい政府の狙いがあると考えられます。労働環境や待遇が良くなれば、それだけ働きたい人や長く働く人が増えるということです。
同一労働同一賃金は、その名の通り同じ業務内容であれば同じ賃金を支払うというものです。日本企業では、派遣社員が正社員と同じ職場で同じ業務をこなしているケースが少なからずあります。今回の改正で、こうした場合は派遣社員にも正社員と同じ賃金を支払わなければいけなくなりました。派遣社員は派遣会社の社員であるため、派遣会社が賃金を支払っています。そのため、派遣会社では軒並み賃金アップになりました。受け入れ企業側も派遣料への配慮義務が発生するため、賃金アップの原資は、中長期的には企業への派遣料へ反映されます。
受け入れ企業側には、他にも教育研修の機会や福利厚生、会社施設の使用などについても、正社員の待遇と同じになるよう配慮する義務が求められることになりました。今後は派遣社員も正社員も徐々に待遇の差がなくなっていくことが予想されます。
これは派遣会社にとっても受け入れ企業側にとっても、少し耳の痛い話なのではないでしょうか。人事部の担当者からしても、中長期的には派遣社員に対する社内の意識を変える取り組みを行っていかなければなりません。今回の改正は非常に大きな変化だと感じています。
バブル崩壊後の「負の遺産」を清算する
というのも、誤解を恐れずに言えば、企業は派遣社員を都合のいいように扱ってきたからです。アルバイトと異なり、派遣社員は多くの場合、フルタイムで勤務可能です。そこそこの能力やスキルを保有している方も多く、日本企業では正社員が担わない定型的な業務を派遣社員にお願いすることが慣例的になっていました。
振り返ってみると、もともと日本の人材派遣は、企業では補いきれない専門的な業務を担う人材を補充するためにスタートしました。それが2000年前後に派遣可能な対象業種が拡充され、派遣社員は徐々に一般事務などの領域で働くようになっていきます。当時はまだ日本がバブル崩壊の影響から抜け出せず、就職氷河期や企業の業績低迷が続いていた時期でした。就職難から派遣社員などの非正規雇用として働く人が増える一方で、採用人数を絞っている企業では人材不足が蔓延しはじめました。そこで、安い賃金で働かせることが可能な派遣社員が次々と企業の働き手として取りこまれていったのです。
しかしこうした派遣社員の増加は、劣悪な環境での日雇い派遣など、非正規雇用者の人権を無視した雇い方も助長することになりました。さらには「派遣切り」の言葉に代表されるように、企業側の都合で簡単に派遣契約が打ち切られるような事態も発生しました。
その後、2008年に起こった「グッドウィル事件」で、大手派遣会社のグッドウィルグループが二重派遣や港湾労働などの違法派遣を行ったことが明るみに出ました。それをきっかけに、徐々に派遣社員の待遇は改善されてきましたが、それでも「派遣は安い労働力」という意識が企業内に根深く残り続けていたのです。
派遣社員はまさに日本経済の負の遺産です。2000年前後の社会背景が強く反映された習慣だったのです。