未払い賃金時効で問題を起こさないために企業に求められる対応は?

 改正により、4月以降に支払うべき賃金の時効は3年となる。未払い賃金が発生していない場合、影響は特になさそうであるが、ないつもりであったのに実際はあった、という場合は問題となる。それは、以下のようなケースが想定される。

(a)振替休日の運用に問題があるケース
「振替休日が50日たまっている」といった話を聞く場合があるが、もはやそれは「振替休日」ではなく「未払い賃金」である。「振替休日」は、就業規則にその旨を定め、事前に振替の対象となる休日と新たに休日となる日(振替休日)を指定して、労働日と休日を入れ替えることをいう。振替休日とすることで割増賃金の支払いが不要になると安易な運用がなされている例もみられる。

 休日を振り替えたことにより、1週間に1休(変形休日制の場合は4週4休)が確保されていないと割増賃金の支払いが必要であるし、賃金計算期間をまたいで振り替えてしまうと、たとえ同一週に振り替えていたとしても、もともとの休日であった日の通常賃金(100%)については、支払う必要が出てくる。そういった点をみていくと、「振替休日50日」があり得ない状況であるのがわかるだろうか。

(b)割増賃金計算に問題があるケース
 割増賃金を計算する際、計算の基礎となる賃金から除外できる手当として、下記のようなものがある。

(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 しかし、このような名称であれば基礎となる賃金から除外できるというわけではない。たとえば、「賃貸住宅居住者は2万円、持ち家居住者には1万円を支給する」といった、住宅に要する費用に応じず一律に支給される住宅手当は除外できず実質的に判断されるので注意が必要だ。

(c)管理監督者の区分に問題があるケース
「課長手当」を支給しているから残業代を支給していない。そういったケースもあるだろう。労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、下記3点が判断基準とされている。

(I)地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること。
(II)勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること。
(III)一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること。

 会社が管理監督者として残業代支給の対象としていなくても、管理監督者として認められない場合は残業代の支払いが必要となる可能性がある。

(d)固定残業代の設定に問題があるケース
 基本給の一部を固定残業代としているケースがあるが、月80時間の時間外労働に対する基本給組み込み型の固定残業代の定めが「労働者の健康を損なう危険があり、公序良俗に反し無効」とされた(東京高裁2018年10月4日判決「イクヌーザ事件」)。適切な運用がなされていないと未払い賃金のリスクがあるといえる。

 未払い賃金があるとなると、時効の延長は企業にとって負担増となる可能性がある。必要であれば専門家に相談のうえ、今一度、自社の労務管理に問題がないかを確認をしておくことが重要である。


松田法子
社会保険労務士法人SOPHIA 代表
https://sr-sophia.com/

著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。