(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)
弾道ミサイル迎撃用の地上配備型イージス・システム(イージスアショア)の導入が、とくに秋田県で迷走している。
5月6日、「防衛省が新屋演習場(秋田市)への配備を断念」と報道されたが、これに対し、河野太郎・防衛相が5月8日の記者会見で「フェイクニュースだ」と否定するなど、混迷が広がっている。
秋田県で反対論が根強いのは、候補地とされた新屋演習場が市街地から近いからだ。地上イージスは、北朝鮮方向となる西側にレーダー波が照射できる立地であれば、どこでも可能であり、たしかに市街地近くに設置する必要はない。立地の選定については、地元とよく調整する必要があるのは当然で、そうした意味では立地の見直しはあり得る。
しかし、こうした流れのなかで、「地上イージスそのものが不要だ」との論がさかんに聞かれるようになってきた。いくつかの新聞やネットメディアでそうした論調があるが、5月10日には日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」も「地上イージス 配備計画そのものを撤回せよ」という社説記事を掲載した。
しかし、候補地選定でのやり直しの話と、地上イージス導入そのものをやめるという話はまったく別問題だ。
地上イージスは、北朝鮮が核ミサイル武装を実現したという非常事態に、日本列島を万が一の核攻撃の被害から守るため、自衛隊がかねて整備してきていた「ミサイル防衛」を、より強固なものにする目的で導入が決められた。それを取り止めよと言うのは、北朝鮮の核攻撃に対して日本列島を、より脆弱にせよと言うに等しい。きわめて危険な言説だ。
地上イージスはハワイとグアムを守るためのもの?
前出・しんぶん赤旗の記事に対して、反論を提示したい。
まずはこの部分。
「北朝鮮の弾道ミサイルはハワイに向かう際は秋田上空を通過し、グアムに向かう際は山口上空を通過することが判明しています。米シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)の論文『太平洋の盾 巨大なイージス艦としての日本』は、日本のイージス・アショアをハワイやグアムの防衛のためだとあけすけに述べています。狙いは明らかです」