(PanAsiaNews:大塚 智彦)
フィリピンの国家通信委員会(NTC)は同国最大手のテレビ局である「ABS-CBN局」に対し5月5日、全てのテレビ放送を停止するよう命じ、同放送局は5日をもって全ての放送活動の停止に追い込まれた。
これは政府がABS-CBNに与えていた放送免許の期限が4日に切れたことに伴うもので、ABS-CBN側がかねてより申請していた免許更新の議会での審議がコロナウイルス対策などで進まなかったために期限内に実現せず、「時間切れ」で実質的な放送活動の停止に追い込まれた形となった。
免許が更新できなかった背景には、ABS-CBNがドゥテルテ大統領とその政権に対して厳しい論調を展開するなど、しばしば大統領と対立してきた報道姿勢が原因との見方が有力。だが、レニー・ロブレド副大統領は「コロナウイルス対策で手一杯の政府が放送局に圧力をかけている余裕などない」と政権側による免許更新手続きへの介入を全面的に否定している。
報道の自由の象徴だったABS-CBN
フィリピンは1986年に実現したピープルズパワーによる「エドサ革命」と呼ばれた民主革命によって、それまでのマルコス大統領による戒厳令布告などの圧制、弾圧から「報道・言論の自由」が実現し、東南アジアでも有数の自由な民主国家して生まれ変わった。メディアも政権批判を含めた自由を謳歌していた。
ABS-CBNは1946年に開設された最大手のフィリピン民間放送局で財閥のロペス一族が所有している。全国に系列局、ラジオ局などを有するフィリピンを代表するメディア企業で、フィリピンにおける「報道の自由」の象徴的存在だった。