日本では企業における雇用調整は、非常に繊細な話題として取り扱われてきました。多くの論調は労働者側からの視点で、解雇や減給の話が企業側の視点から客観的かつ冷静に語られることはなかったように感じます。しかし終身雇用制が終わりつつある中、変化の激しい現代では自分自身の雇用は自分で守る時代になりつつあります。こんな時代だからこそ、あえて雇用について考えたい。そこで今回は人事の視点から、雇用調整の裏側について解説します。
人事は雇用調整をこっそりやってる
日本企業の人事担当者のほとんどは、社員の雇用を守りたい、できれば給料をたくさん支払いたい、そして会社をもっと好きになって楽しくパフォーマンス高く働いてほしい、そんな強い思いを持っています。
一方で多くの企業では年々、人件費の上昇が続いています。売上や利益が伸びている成長企業であれば問題ないですが、日本の多くの企業は成長企業ではありません。そもそも日本経済が成熟しつつあり、ASEAN諸国のように経済成長が著しい環境ではない状況です。昔のように売上が伸びなくなる一方で、人件費が上昇する。そんなことに日本企業の経営者や人事は頭を悩ませています。
しかし日本企業では、少し業績が悪くなったからと言って欧米企業のように従業員を解雇することはほとんどありません。でも人件費を抑制しなければ企業業績が悪化してしまいます。人件費を優先した結果、必要な設備投資をあきらめる企業も少なくありません。経営者も人事も、会社を維持するためにどうすれば人件費を抑制できるのか真剣に考えているのです。
また、人件費は抑えればよいというわけではありません。やはり必要な人材を確保するにはそれなりの費用が必要です。しかし、企業の人件費は限られていますし、今いる従業員の雇用も守らなければなりません。かといって、売上が今すぐに急成長するかというとそうでもない。
そうなると、欲しい人材には多くの人件費をかけ、生産性の低い業務を担う人材は人件費を安くするしかありません。そこで、定型業務は外注に出すか、人件費の安いアルバイトや派遣社員でまかないます。あとは採用人数を抑え、定年退職による自然退職を待つしか人件費を抑える方法はないのです。また、本当に必要な時はローパフォーマーに退職勧奨を行うこともあります。しかしそれも、検討に検討を重ねた苦渋の決断なのです。
人事では人件費を管理する部署として、少ない打ち手の中で会社をなんとか維持できるギリギリの雇用調整を行っています。経営者と人事にとって、人件費をとりまく問題はジレンマだらけです。