毎年恒例の新規事業コンテスト「あした会議」。新型コロナを受け、急遽オンライン開催を決めた

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業の多くは売上高の急減や在宅勤務への対応など未曾有の試練に直面している。ただ、激しい地殻変動を前にして、対応に追われる会社と、危機を奇貨として積極的に変化に適応しようとする会社に分かれつつある。

 インターネット広告事業などを手がけるサイバーエージェントも新型コロナの影響は免れない。

 2020年1ー3月期は前年比10%増の売上高1291億円、利益に至っては124億円と前年比45%の増と絶好調だった。だが、主力の広告事業は外出自粛要請による経済活動の縮小によって減速しており、4ー6月期の業績に影響を及ぼすだろう。

 もっとも、ただでは転ばないのがサイバーエージェントである。コロナ禍の中で何に取り組み、どんな学びを得たのか。取締役人事統括を務める曽山哲人氏がこの1カ月あまりを振り返る。

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し始めた2月以降、社員の安全確保や感染拡大の阻止、停滞する経済活動やリモートワークへの対応など、企業を取り巻く環境はそれまでと大きく変わりました。サイバーエージェントグループも2月以降、基礎疾患を抱える社員や家族のケアが必要な社員、学校の休校に伴って在宅勤務が必要な社員など、段階的に在宅勤務を進めてきました。その後、小池百合子・東京都知事が外出自粛要請を出した3月26日に全社員を対象に在宅勤務を告知、できる社員からフルリモートにシフトしました。最終的に全社を対象に在宅勤務を導入したのは3月30日です。

 外出自粛要請が出たのは新卒社員が入社する直前でしたから、入社式や新入社員研修などもリモートで開催せざるを得ませんでした。走りながらつくり上げたので、いろいろと新入社員のみんなには迷惑をかけたと思いますが、逆にリモートだからこそ良かった面もたくさんありました。

 今回の新型コロナウイルスでは、多くの企業経営者や社員が試練に直面しています。一刻も早く収束してほしいと私も思っています。ただ、こんな状況だからこそ、これまでの仕組みを見直し、ビジネスをアップデートすることができるという側面もあると思います。現に、サイバーエージェントは今回のコロナ禍をきっかけに、さまざまな取り組みを始めています。

 以下、経営と人事の両面で、過去1カ月で起きたこと、取り組んだことを書いていこうと思います。危機に直面するみなさんの参考になれば幸いです。

4月半ば以降、既に2社を設立

 まず、サイバーエージェントが積極的に取り組んでいるのはコロナ時代に対応した新規事業の創出です。

 当社の売上高の56%は広告収入が占めています。オンラインで完結する業種も多く、継続的に出稿されている広告主は多いですが、3月以降に広告の出し控えやキャンセルも出始めており、この4-6月の業績に影響が出るのは避けられません。ただ、新型コロナに伴う接触削減とオンラインを中心とした業務の拡大といった流れは一過性のものではなく、長期的に続くでしょう。つまり社会構造が大きく変わるタイミングだということです。社会構造が変われば、それだけチャンスも数多く生まれると考えています。

 そこで、サイバーエージェントは4月半ば以降、コロナ時代に対応した新会社をいくつも立ち上げています。

 例えば、リアルイベントの中止で打撃を受けているエンターテインメント産業向けに、デジタルシフトやオンラインでの収益化をサポートするOENという会社を設立しました。サイバーエージェントにはオンラインで映像コンテンツを提供しているABEMAがあります。傘下のプロレス団体「DDTプロレス」もかねてより「DDT UNIVERSE」でコンテンツを配信してきました。こういった動画配信やマネタイズのノウハウを、エンターテインメント産業に提供していく会社です。

 また、ドラッグストアのデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するMG-DXを立ち上げました。新型コロナの感染拡大によって、医療機関には多大な負荷がかかっています。その状況を踏まえ、厚生労働省はオンラインによる診療や服薬指導を前倒しで解禁しました。ドラッグストアのDX対応やオンライン服薬指導の体制作りが急務になっています。今回、設立したMG-DXは、そういうニーズに対応することを目的に作りました。

 売上高が大きく減少していれば、既存のビジネスや雇用をどう維持するか、ということで頭がいっぱいになるのも仕方ないことだと思います。ただ、こういう時期だからこそ起業のチャンスはたくさんありますし、ビジネスを通して社会に貢献することができると私たちは考えています。 

 もちろん、新会社を次々に立ち上げている背景には、それを可能にする仕組みと経営の意思があります。