デジタル化が進めば大企業の「魔法」はもう通じない

 今年は入社式をリモートで実施する企業も多かったでしょう。人数の少ない企業では、対策をきちんと行ったうえで入社式を行ったのではないでしょうか。

 こんな時対応に差が出るのが、大企業とそれ以外の企業です。大人数かつ資金的体力がある大企業のやり方を見ると、やはりすごいなと思います。大企業が入社式を全員へライブ配信している様子は、ニュースでも取り上げられました。一見、簡単なようですが、これはセキュリティ面や費用面でかなり手間もお金もかかる取り組みです。せっかくの社長の挨拶で、映像が乱れてしまったり、音声が途切れてしまったりしては大変です。多くの場合、専用回線とプロのスタッフを手配して、万全の体制でライブ配信を行っているはずです。

 片や中小、中堅企業ではそもそも入社する新入社員が数名~数十名なので、入社式を会社で執り行った企業が多いのではないしょうか。マスク越しでやや遠い距離感ながらも、やはりこうしたイベントで社員同士が顔を合わせるのは良いことだなと感じます。

 しかし新入社員研修は、大企業も中小・中堅企業企業も、昨今のデジタル化の進展でeラーニングやライブ配信を行う企業が多いのではないでしょうか。これまで大企業では、豊富な資金力をもとに、新入社員研修を社外の研修会社に依頼してきました。無人島での合宿やフィールドアスレチックなど、お金をかけてユニークな社外研修に取り組む大企業もありました。

 ところが、デジタル化で研修がeラーニング化されると、コンテンツ勝負になります。最近ではYouTubeなどで素人がコンテンツを配信する時代になりましたが、イマドキの新入社員はこうした動画コンテンツに慣れています。では、プロの研修講師の講義をそのまま映像化すれば面白いコンテンツになるかというと、決してそうではありません。対面だからこそ持ち味が活かせる講師の方の方が圧倒的に多いです。そもそも研修会社や研修講師は、研修コンテンツを録画されてしまうと、それ以降、対面での講義が不要になってしまうため、ビジネス上、ネットでの配信を好みません。

 また、これだけリモートワーク(テレワーク)化が進むと、かえって大企業の稟議や承認プロセスが事業を推進する阻害要因になります。中小・中堅企業の方が、少人数ゆえスピーディーに仕事を進めることができ、何かあった時でもすぐに集まれるメリットがあります。

 現在の流れでデジタル化が進むと、大企業と中小・中堅企業の差が縮まり、かえって後者の方が優位になる可能性があります。

入社式から始めるキャリアづくり

 デジタル化が進むこれからは、大企業も中小・中堅企業もベンチャーも、働き方の面では同じ水準になるでしょう。どの企業でもリモートワーク化が進み、働き方が変わらないのであれば、新入社員はちょっとしたことで会社を離職するリスクがあります。最近では、入社3年以内に新入社員が辞めることが当たり前になってきました。多くの企業では、ある程度の離職を想定して少し多めに新入社員を採用しています。

 だからこそ、今年の新入社員に対しては「会社でのキャリア」を考える取り組みが不可欠だと思います。新入社員の多くは、大学でキャリア教育を受けてきています。終身雇用制の終焉など、雇用環境の変化により1つの会社で働くのが当たり前ではないということを認識しています。

 また、昨今の社会情勢の影響で、卒業式も入社式も満足できるものではなかった方が多いでしょう。きっと「大変な時に入社してしまった」と思っているはずです。その思いが、何かのはずみで離職へとつながることもあるでしょう。

 入社式は、新入社員が社会人としてのファーストキャリアを始める初日です。それゆえに、この初日からキャリアを考えるのはとても重要なことです。人事部員はついつい、毎年恒例の行事として入社式や新入社員研修を執り行いがちです。しかし、これからの新入社員には入社初日から会社でのキャリアを考える取り組みが必要なのです。

 社会情勢の影響とはいえ、今年も行事的に入社式を行ってしまった企業では、あとからこの初日の大切さに気付くかもしれません。そして、今年の入社式や新入社員研修で実施したことや、新入社員が見聞きしたことは、これから大きな差になっていくでしょう。
 

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HRプロ編集部

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