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上海の街中に貼られた習近平国家主席のポスター(写真:ロイター/アフロ)

(文:野口東秀)

 新型コロナウイルスのパンデミックで、中国は、習近平国家主席と一党独裁体制の中国共産党の指導力があったからこそ危機を脱した、という局面を国内外で作り出そうとしていることは、拙稿『「主席と党に感謝せよ」評価を受けたい習近平の焦燥』(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59746)で触れた。

 習近平指導部は、東京五輪まで延期せざるを得ないほど世界が混乱、とりわけ欧米に感染の中心が移った今こそ、悪化した中国の対外イメージを変え、さらには中国の国際社会での影響力拡大を可能とする「反転攻勢の絶好の機会」としてとらえているようだ。

 そのカギとしているのが、中国から世界への支援、つまり国際協調する責任大国としての姿を宣伝することである。

 4月8日に湖北省武漢市の封鎖を解除することを3月24日に発表したが、延期されていた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)を早ければ4月中に開催し、「終息宣言」すると考えられる。

「新規感染者をゼロに抑えよ」との指令

 まず、武漢封鎖解除の布石となったのが、武漢での新規感染者ゼロ(3月19日発表)である。中国国内の報道は、新規感染者はすべて海外から帰国した中国人など中国本土以外で感染したケースであると強調する。

 さまざまな情報から考えると、「新規感染者をゼロに抑えよ」との指令が党中央から全国に通達されたと推測できる。

 真偽は不明だが、湖北省に対する中央からの通知が海外の華人ネットで転載されていたこともある。

 通達は3月10日に習近平主席が武漢を視察する前のことであろうが、この視察を前にして、2月末には湖北省以外の全国のほとんどで新規感染者数はゼロとなり、湖北省でも3月に入り急減。2月初旬に3桁4桁だった新規感染者数が、いきなり3月18日にはゼロとなったのはなぜか、と疑いたくなるのは筆者だけだろうか。

 初動対応と情報隠しを問われた前武漢市市長が、感染状況について、

「党中央からの指示がなければ情報を公表できない」

 と吐露したことがあったが、習近平指導部からの指示があれば、下部組織は感染者が出ても公表しないか、報告しないことはむしろ当然であるのが中国の体制である。新規感染者が出ても、末端の当局者は「ゼロ」と報告する状況は容易に推測がつく。

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