「黒字リストラ」の加速、好業績企業がシニアを削る

 注目すべきは、規模の大きさだけではない。リストラはリストラでも、今回の動きにはバブル崩壊後やリーマンショック後のそれとは明らかに異なる特徴が含まれている。

 日本経済新聞が2019年に希望・早期退職を実施した上場企業の業績について分析したところ、全体の約6割にあたる企業が直近の通期最終損益は“黒字”であるとわかった(※2)。人数で見ると、これら好業績企業の削減人数は中高年層を中心に計9,000人超と、全体の8割を占めている。業績悪化から人員削減に追い込まれる赤字企業がある一方で、足元の業績が好調・堅調な企業があえて希望・早期退職に踏み切る「黒字リストラ」が急増している実態が浮かび上がった。

 ここ一年で特に動きが顕著だったのが製薬業界である。18年12月期に純利益が2期連続で過去最高を更新した中外製薬では19年4月に45歳以上の早期退職者を募集し、172人が応募した。アステラス製薬も同年3月期の純利益が前期比35%増えるなかで、3月までに約700人の早期退職を実施。他業種でもカシオ計算機やキリンホールディングスといった大手が同様の黒字リストラを断行した。

 さらに、この流れは一過性で終わりそうにない。東京商工リサーチによると、2020年もすでに9社が計1,550人の早期・希望退職を実施する方針だが、うち7社は19年度に最終黒字を見込む業界大手。味の素は同年1月から50歳以上の管理職の1割強にあたる100人程度の早期退職者を募集する。

 年功序列型が色濃い大手企業の賃金体系では、いわゆるバブル大量入社組を中心とするシニア社員の賃金がもっとも高くなる傾向にあり、ボリュームコストになっていることは否めない。とはいえ、好業績の企業までが競ってその層を削減しようとしているのはなぜなのか。背景にどのような変化があるのか。後編でさらに考察を深めてみたい。

※2:「黒字リストラ」拡大、19年9100人 デジタル化に先手(日本経済新聞)
※3:2019年(1-11月) 上場企業「早期・希望退職」実施状況(東京商工リサーチ)

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HRプロ編集部

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