「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」――2019年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長の記者会見での発言に大きな波紋が広がった。最近は足元好調な企業でも、シニア層を中心に人員削減を進める「黒字リストラ」が後を絶たない。リストラと聞くと業績悪化をイメージするが、19年に希望・早期退職を実施した上場企業の約6割は直近の最終損益が黒字だった。人手不足が深刻化する一方で、大企業で加速する黒字リストラの流れ。いま、職場に何が起こっているのか。
「定年延長」と「希望・早期退職」の奇妙な同時進行
人生100年時代の到来。それは、同一企業で60~65歳まで働き続けることが、もはや“終身”雇用には当たらないことを意味している。では、定年年齢をもっと引き上げればいいのかというと、話はそう単純ではない。国は、人手不足の軽減や年金など社会保障費の抑制を目的として、希望者全員が70歳まで働ける機会の確保を企業の努力義務とする「70歳定年法」(高齢者雇用安定法改正)の導入を進めているが、現実には雇用の延長や安定どころか、むしろそれに逆行するかのような動きが顕在化しつつある。2017年以降、大企業がシニア社員の希望・早期退職を募るケースが相次いでいるのだ。
会社が従業員に、あらかじめ退職金の割増支給などのメリットを示して、定年前に退職することを促すしくみを「早期優遇退職」などと呼び、これには
(1)業績悪化に伴い、臨時に期間限定で希望者を募集するケース
(2)業績にかかわらず、組織の若返りを促す目的で一定の年齢に達した従業員全員を対象に募集するケース
の2種類がある。一般的に「希望退職」というと前者を、「早期退職」は後者を指すことが多いが、いずれにせよ、実態は人員の削減=リストラにほかならない。
東京商工リサーチの調査(※1)によると、リーマンショック直後の09年、希望・早期退職者募集を実施した上場企業数は191社にのぼった。円安で大手企業の業績が好転した13年からは減少を辿っていたが、17年に5年ぶりに増加。そして昨年1年間では延べ36社と前年比3倍に急増し、募集人数も約3倍の11,351人にまで膨れ上がった。希望・早期退職者数が1万人を上回ったのは6年ぶりだという。
1社で1,000人以上の募集・応募があった企業は、富士通の2,850人を筆頭に、ルネサスエレクトロニクス約1,500人、東芝1,410人、ジャパンディスプレイ1,200人の計4社で、前年より3社増えた。統計を開始した2000年以降で3番目に多く、大企業による規模の大きなリストラが目立つ形となった。