投資初心者にテーマ型ファンドは難しい?

 AIにも宇宙開発にも夢があります。でも、本連載のテーマでもある「現金のリスク」、つまり「物価上昇に負けないための投資」という観点で考えた場合はどうでしょうか?
 筆者の見解としては、投資初心者の皆さまにとってテーマ型ファンドは扱いが難しいので、まとまったお金を投資することはあまりおすすめできません。

 なぜでしょうか? 理由は3点あります。

理由① 投資先が特定の業種・業界に偏っている

 テーマ型ファンドは、ある業種・業界に強い企業の株式を集めて、ひとつの投資商品を構成しているので、特定の業種・業界に偏るのは必然です。
 なので、業界全体に関わるネガティブな出来事があったときに、ファンドが投資している企業の業績や株価が総崩れになってしまう可能性だってあるのです。

理由② 価格の急落で「狼狽売り」が起きやすい

 先述の通り、期待ととも夢をふくらませて、その勢いでテーマ型ファンドを買ってしまった方。ファンドのリスクや(特に業種・業界の)将来の見通しなどを、きちんとご理解いただいたうえで買われたのでしょうか?

 期待と夢でテーマ型ファンドを買ってしまうと、ふくらんだ夢が醒めてしまったとき、つまり投資信託の基準価額が急落したとき……そう、魔法が解けたシンデレラみたいなことが起きたら、それが一時的なことなのか、今後も続くことなのかを見極めることなく、あわてふためいてファンドを手放してしまう(売る・解約する)人が多いと聞くことがあります。これは「狼狽(ろうばい)売り」とも言われています。

 テーマ型ファンドの投資対象である個々の企業は将来を期待できるのに、一時的な値下がりでファンドを狼狽売りする人が多ければ、業界の実態以上にファンドが不調になってしまうかもしれません。

理由③ 組み入れられた株式の数が少ない

 3点目は筆者の私見ですが、テーマ型ファンドは組み込まれている株式の数が少ないように感じます。

 あるテーマ型ファンドに組み込まれている企業の数は50社です。これがテーマ型ファンドではない、いわゆるインデックス型ファンドの場合、例えば日経225(日経平均株価)に連動するファンドでしたら、225社の株式が組み込まれていることになります。50社と225社とでは4.5倍の開きがあります。組み込まれている企業の数が少なければ、1社の株価が暴落しただけで、ファンドの価格も大きく下がってしまうことが考えられます。

 さらに、テーマ型ファンドは業種・業界が偏った50社であり、日経225は業種・業界がばらけた225社という点でも、ファンドの性質は大きく異なっています。

ITバブル期に買ったファンドが4分の1に下落

 筆者がまだ20歳代だった頃のお話です。
 証券会社の窓口の綺麗なキレイなお姉様から、優しい口調で勧められるままに「情報○○ファンド」というテーマ型ファンドを、何と120万円も買ってしまいました。当時の筆者の年収は300万円ほどでしたから、かなり大きな投資と言えるでしょうね(ちなみに、当時はFPなどの資格は保有しておらず、またFPとは全く異なる業界におりました。念のため)。
 ちょうどこの時期はITバブルが崩壊する直前で、当初の120万円は半年も経たずに30万円ほどになってしまいました。

落胆する男性特定の業種に集中投資すると、資産価値の急激な下落に見舞われることも

 それでも、下がったときにあわてて売ることはありませんでした。6年ほどを経て、140万円まで上がったところで売却しました。
テーマ型ファンドなら、現代でも大いにあり得るお話です。我ながらよく我慢できたなぁと、今でも思っています。

未来は分からないから「バランスの良い投資」が大事

 繰り返しになりますが、投資は「未知の未来への投資」です。未来のことは誰にも分からないはずです。
 AIを開発している企業の株価の伸びも、自動運転の自動車を開発している企業の10年後も、誰にも分からないはずです。
 それにも関わらず、やれ「AIには大いなる夢があり、株価も大きく上がる」だとか、「宇宙開発はこれからだから、宇宙開発の企業の株価もこれからだ」などと言っている日本人のなんと多いことか。

 もちろん、投資先が特定の業種・業界に偏っていなくとも、株価が総崩れになってしまったことだってありますし、今後もあるかもしれません。しかし、総崩れになったとしても、特定の業種・業界に偏った投資をしていなければ、崩れ方には業種ごとにバラつきがあり、総崩れの後に回復する業種を見極める必要もないのです。

 やはり、本連載の第7回第8回でお話しした「バランスの良い投資」を地道に続けることが、お金の価値を守ることにつながるのではないでしょうか。

テーマ型ファンドに投資する場合の心得

 さて、筆者が承ったご相談のお話の続きです。
 筆者がテーマ型ファンドをおすすめできない理由を、先述のようにお客様にお伝えしたところ、

 「(日経225などに代表される)インデックス型ファンドは中身が見えず、分かりにくい。テーマ型ファンドの方が夢がある。アマゾンやアップルはなじみがあるし、テスラには期待が持てる」

 というお言葉をいただきました。

 テーマ型ファンドに投資をしたいのであれば、例えば、AI開発の企業を投資対象とするAIファンドでしたら、まず、「なぜAIなのか?」。そして、「なぜファンドはその企業を組み込んでいるのか?」という点まで、ご自身で情報を収集するくらいの慎重さが必要でしょう。
 あるいは、そうした情報に精通していて、しかも信頼のおけるアドバイザーが身近にいる、とか。

 確かにテーマ型ファンドには夢があるし、仕組みも分かりやすいと思います。実は、筆者もテーマ型ファンドへの投資で利益を得ています。
 でも実際にテーマ型ファンドに投資してお金を増やしていこうと考えたら、業界や企業に関する一定の知識や経験が必要となります。
 投資は夢だけではなく、現実をしっかりと見ることが大事なのです。