AI時代の教育投資

 日本の子供たちの読解力が低下しています。多種多様な価値観が交差し、技術的な進化のスピードが速い、これからの社会を生き抜くうえで必要な力です。AI時代の教育について考えていきましょう。

前回の記事「子どもたちを待ち受けている世界」はこちらから

世界的な教育の危機?

 前回の記事では、「不確実な未来に対して、予想さえできない課題を解決するために、まだ生まれてもいない仕事、まだ発明されてもいないテクノロジーへの準備をすることが、学校(教育機関)が果たすべき責任である」というOECD(経済協力開発機構)からのメッセージについてお話ししました。
 しかし、そのようなことを可能にする“魔法の杖”など、この世の中に存在するのでしょうか。

今までの教育で重視されてきた「知識」にとどまらず、持っている
1)知識
2)スキル
3)主体性
4)周りの人たちの多様性や価値観
を尊重しながら協働する力、それら全てを総動員して、今までのやり方が通用しない未来の課題に対して対応できるように、子どもたちを育てていくこと。

出典:The Future of Education and Skills – Education 2030, issued in 2018 by OECD, 翻訳

 OECD加盟国・非加盟国が、これらのビジョンに基づき、不確実な未来に向かって教育制度を整えていこうとしています。

 一見、とても難しいことのようですが、子どもたちの主体性を育み世の中の多様性や価値観を尊重しながら協働できるようにする…。
 実はこれ、日々の子育てのなかで親が育んでいけること。未来が見えない時代だからこそ、子育ての大切さがより高まっていきそうです(詳細は、第5回目でお伝えします)。

AIに仕事を奪われない、未来

 AIの大きな強みは、膨大なデータから特徴をつかみ、法則を作り上げて自動化できること。マニュアルで説明ができてしまうような業務はAIに取って代わられてしまうでしょう。しかし、一人ひとりの知識や経験を総動員して試行錯誤を繰り返し、周囲と協力しながら、人間だからこそ持ちうる「新しい価値を生み出せる力」を育んでいけば、いかにAIが進歩しても、共に生き抜いていけると考えられています。
 AI技術の進歩により、これから今後10年から20年の間に49%の仕事が奪われると言われている今、子どもたちが身につけておくべき力。それは、与えられた前提条件や課題を正確に読み解く「読解力」です。

 日本では2011年から、「ロボットは東大に入れることができるのか」をテーマにしたプロジェクトを国立情報学研究所が行っています。これまでの研究で、AIが持ち得ない能力「読解力」を持っているはずの子どもたちが、実は教科書の文章を読んで理解することができない実態が分かって来ました。彼らはAIと同じようにキーワードだけを拾って問題を解こうとしていたのです。

子どもの読解力が低下

 このようなことを背景に、2019年12月に「PISA」の調査結果が発表された際には「日本の子どもたちの読解力は大丈夫か?」と、メディアで騒がれました。

 読者のみなさまには、あまり馴染みのない言葉だと思いますが、PISAとは、OECDの加盟国が参加する国際的な学力到達度調査(15歳が対象)のこと。「数学リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3つの分野で、15歳(日本では中学3年生)までに学んできた知識が、社会で生き抜くための力になっているのかを測ります。

 日本の子どもたちは、数学や科学では2000年の初参加以降、世界トップクラスを維持してきました。その一方で「読解力」は、ピークだった2012年度の4位から、2015年度は8位と下降。さらに2018年度は15位と大きく落ち込んでしまいました

【図表】2018年調査の国際比較(3分野の結果)

数学的リテラシー科学的リテラシー読解力

出典:国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」2019年12月

 果たして日本は、不確実な未来に必要な教育のあり方や課題に対し、どのように取り組もうとしているのでしょうか。第3回でお話しします。