冷血漢のイメージ返上したい金正恩

「金敬姫氏殺害」の証言は、別の人物からも出ている。

 最近、保衛部の局長が第三国に亡命をしたが、その局長が当時、金元弘元保衛部長から金敬姫氏が毒殺されたことについて外部へ噂が広がるのを防ぎ、一切秘密に付するようとの指示を受けたというのだ。ところが皮肉にも、金元弘元部長は粛清され、現在、家族とともに終身政治犯収容所(耀徳強制収容所)に収容されているようだ。

 では、北朝鮮の指導部は、死んだはずの「金敬姫」をなぜ今になって表舞台に引っ張り出したのだろうか。

NKTVが入手した三池淵劇場での記念公演の映像。金正恩氏(右)の夫人である李雪主氏の後ろにのぞく金敬姫氏の姿(ユーチューブチャンネルNKTVより)

 いま北朝鮮は、国連と米国の制裁で経済的に相当な苦境に立たされている。そこで国民の不満を鎮めるため、「白頭血統」(金正日総書記が白頭山で生まれたとのことから、金一族の血の本筋)の結束を示す必要から、金敬姫氏を登場させたのだ、との解釈もなされている。

 だが、前述の康明道氏はそれとは別の見方を示す。北朝鮮高官らが話している内容として、「金敬姫がまだ健在であることを北朝鮮国民に見せた後、『病死した』と発表し、国葬を行うためのトリックではないか。おそらくまもなくその(虚偽の)葬儀があるだろう」という予想を紹介した。つまり、金氏の毒殺説を覆すためのニセモノの葬儀を近く実施するだろうが、そのための準備過程の一部だろうというのだ。

 というのも康明道氏によれば、金正恩委員長は叔父や叔母を殺した冷血漢のイメージを返上したがっているというのだ。

「叔父を高射砲で処刑し、叔母を毒殺したという破倫児(=人倫に外れた人)の印象から脱するために、金敬姫の影武者を立てたのかもしれない。だが今回の件は、むしろ破倫児のイメージを国民に思い起こさせることになるかもしれない」(康明道氏)