終身雇用と年功序列は一部残る

 それではなぜ、日本企業は終身雇用制を続けてきたのでしょうか。それには、なぜ今まで終身雇用制度と年功序列が日本型人事制度の中心だったのかを考えてみる必要があります。まず、年功序列は最も合理的で公平な制度のひとつといえます。なぜなら、従業員全員に該当する「年齢」という基準を軸に給与やポジションなどの処遇が決まるからです。実際、人の優劣を評価することは難しいものです。また、年功序列は「時間とともに能力や経験値が上がる」という前提に基づいています。終身雇用制も労働市場が発達していない日本では、人材を抱え込むのに有効な手段のひとつであると考えられます。

 これからの日本は、若い人材が圧倒的に少なくなります。そのような中では、高齢者にも積極的に働いていただかなければなりません。また、今後はさらに年金制度の維持が厳しくなるでしょう。そうなるとシニアの方々も働きたいという意欲が高まるのではないでしょうか。こうした環境の中では、あえて「定年まで働けます」と標ぼうする企業の方が人材獲得面で有利になります。すぐに辞めてしまう若手よりも、経験豊富で忍耐力のある昭和世代の方が業種によっては貴重な戦力になるとも考えられます。人材確保を真剣に考えるのであれば、環境に合わせてあらゆる手段を講じていかなければなりません。年功序列も「じっくり腰を据えて働きたい」という方には良いかもしれないですよね。

 このように考えてみると、一律に日本型人事制度がダメとはいえないでしょう。

 外部労働市場がさらに発達して少子化に歯止めがかからない限り、終身雇用制度や年功序列という慣例は一部残るでしょう。新たな時代の幕開けは、日本型人事制度の総とりかえではなく、日本型人事制度の存在意義が良い点も改善点も含めて改めて問われているのではないでしょうか。

参考文献
労働政策研究・研修機構「国際労働比較2018」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/documents/Databook2018.pdf

著者プロフィール
 

中野 在人

東証一部上場大手メーカーの現役人事担当者。
 

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。
 

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。
 

個人でHRメディア「HR GATE」を運営中。
HRメディア「HR GATE」