中国が外敵の襲来に備えて作った万里の長城

多極化が招く「激動と混迷」の世界

 昨年11月に日本を訪れたローマ法王フランシスコ1世は、長崎、広島で核廃絶の強いメッセージを世界に向けて発信した。

 その背景は、2014年夏、欧州全土から教皇庁を訪れた数万人の巡礼者に向けたミサで、次のように発言した法王の情勢認識に基づいていよう。

「2つの世界大戦後の今日でさえ、地域紛争、大量虐殺、人間の殺害、その他の侵略者やテロリストたちの犯罪の中で行われていることを第3次大戦であると述べることができる」

 この発言は、世界に大きな衝撃を与えたが、現在、世界中で起きている侵略や領土紛争、暴力的過激主義と国際テロ、核兵器の拡散、サイバー攻撃、破綻国家と難民、分離独立主義など、様々な紛争や国際問題の所在を雄弁に物語っている。

 また、法王の発言は、それを「第3次大戦」と呼ぶかどうかは別として、第2次大戦後、最大の難民(現在約6500万人)を発生させ、「激動と混迷」の時代を招いた厳しい世界の現実を的確に表しているともいえよう。

 同時に、このような世界の動きは、冷戦後しばらく続いた米国の一極支配が壊れ、世界の多極化が進行したことによって突きつけられた側面が大きく、既存の国際秩序の破壊あるいは激変にも通じるものとして、厳重な警告を発していると理解することができる。

 戦後約40年以上にわたった東西冷戦における米ソ二極支配は、1991年のソ連邦の解体によって崩壊し、唯一の超大国米国を中心とする一極支配の時代になった。

 しかし間もなく、中国をはじめとしたBRICsに代表される新興国の経済的躍進と政治的台頭が顕著となり、そのため米国の地位とパワーは相対的に低下し、2000年に入った当初10年の後半頃から多くの国がそれぞれの主張のもとに国際政治に積極的に関わるようになった。

 このように、20世紀末から21世紀初頭にかけた国際政治の潮流は、世界の多極化、すなわち権力(主要プレーヤー)の乱立による不安定化・複雑化・不透明化をもたらし、その影響は、我々を「激動と混迷」に特徴づけられる時代の渦中に投じたのである。