画像:Pete Linforth(Pixabay)

 AIが発達した先に訪れるであろう「脱労働社会」。そこで必要とされるのは、雇用保障なのか、それとも所得保障なのか? 気鋭の経済学者、井上智洋氏が、望ましい社会設計のあり方を論じる。全2回、後編。(JBpress)

(※)本稿は『MMT現代貨幣理論とは何か』(井上智洋著、講談社選書メチエ)より一部抜粋・再編集したものです。

雇用保障プログラム

(前編)熱い論争の的、MMTの本当の独自性はどこにあるのか
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58617

 金融政策はあてにできないとMMT派は主張します。それでは、どうやって景気をコントロールするのでしょうか? 政府支出を増やしたり減らしたりすることでコントロールするのでしょうか?

 MMTが主張するのはある意味ではそういうことです。しかし、政府が景気に応じて、人為的に判断して政府支出額を決めるわけではありません。

 MMTは、マクロ経済政策の中軸に「雇用保障プログラム(JGP)」を据えています。これは、すべての希望する失業者に仕事を与える政策です。その賃金は、1日8時間くらい働いたら最低限の生活を送れるような額に設定する必要があります。

 明確に導入した国はまだありませんが、たとえばアメリカでは、2020年大統領選に出馬すると見られている民主党のコリー・ブッカー上院議員が、雇用保障を政策として提案しています。

 過去にはJGPに近いものとして、ニューディール政策の一環である雇用促進局(Works Progress Administration [Work Projects Administration] WPA)の雇用プログラムがありました。1930年代の大恐慌期にアメリカで実施されたこのプログラムによって、ダムの建設から壁画の制作、音楽演奏に至るまで様々な仕事が創出され、850万人もの人々が雇用されています。