今年6月、プリンスアイスワールド 2019 札幌公演で演技する織田信成(写真:坂本 清/アフロ)

 果たして事の真相はどうなっているのか。

 9月まで関大のアイススケート部監督を務めていたプロスケーターの織田信成氏が同部・濱田美栄コーチからモラルハラスメントを受けたとして、1100万円の慰謝料などを求めて大阪地裁に提訴した。訴状によれば織田氏は同部監督に就任直前の一昨年3月ごろから指導方法などをめぐり、浜田氏からの無視、陰口といったハラスメント行為が始まったと主張。精神的苦痛を受け、今年3月には体調不良で1週間の入院を強いられ、アイスショーも欠場するようになったという。今年5月にはスケートリンクにも行けなくなってしまい、監督業の継続も実質不可能となってしまったとのことだった。

織田氏の涙の告発にもメディアの大勢は濱田コーチ擁護へ

 18日には弁護士同席のもと、会見に臨んだ織田氏は沈痛な面持ちで時折涙を浮かべ、ハンカチで拭う場面もあった。ただ、もともと織田氏と濱田コーチの確執は表面化していた。9月に自らの退任発表が公表された際、織田氏は多忙を理由とする一部報道に対して猛反論。ブログでモラハラ行為があったと指摘し、週刊誌の取材にはその主が濱田コーチであることをハッキリと明かすとともに陰湿な嫌がらせについても詳細に明かしていた。

 とはいえ、このタイミングで提訴に踏み切るとは正直思わなかった。折しもフィギュアスケート界はシーズンの真っただ中。これまでの織田氏の怒りを考えれば法廷で争う流れも予想できたとはいえ、選手たちに大きな動揺を与える可能性は少なくないだろう。一部有識者の間から「どうしても拳を振り上げたいならば、シーズンオフまで待っても良かったのではないか」と指摘する声が出ているのも確かに無理はない。

 しかし、それ以上に違和感を覚えるのは各メディアがこぞって濱田コーチを擁護している点だ。モラハラ提訴に踏み切った織田氏が逆にぶっ叩かれ、一方の濱田コーチには手腕や功績についての美辞麗句がこれ見よがしに並べ立てられるなど薄気味の悪い報道も多く散見される。

 確かに濱田コーチの実績は申し分ない。女子フィギュア界の第一線で活躍中のトップアスリーターたちを次々と育成し「名コーチ」として、その名を轟かせている。教え子の紀平梨花、宮原知子、白岩優奈の3選手はフィギュア最高峰とされるGPシリーズに参戦中。しかも昨季の世界選手権で男子銅メダルを獲得した米国のビンセント・ゾウや、キム・ヨナの後継者として期待される韓国のユ・ヨンら有力外国人選手も指導。その手腕は海外からも高い評価を得て、まさに引っ張りだこである。

濱田美栄コーチと女優としても活躍する本田望結。本田も濱田コーチに師事している選手の一人(写真:松尾/アフロスポーツ)