中国の反スパイ法は徹底して恣意的運用できるように規定されており、当局に狙われたら逮捕・起訴から逃れられない

 今年9月3日に中国社会科学院近代史研究所の招きで北京入りした北海道大学の教授が、9月8日、帰国時に空港で拘束される事件が起こった。

 同教授は11月15日に釈放され、同日に帰国した。中国外務省報道官は、釈放時の記者会見で、「刑法と反スパイ法に違反した疑いで拘束していた」と発表している。

 同教授の刑法上の容疑は国家安全危害罪とされているが、反スパイ法違反との嫌疑も挙げられている。

 中国当局は2015年以降、スパイ行為に関与したなどとして同教授以外にも日本人の男女計13人を拘束し、うち8人に実刑判決を言い渡している。

 また11月15日現在、中国では9人の邦人が、事実関係が不明確な形で拘束されている(『産経新聞』令和元年11月16日)。

 中国の「中華人民共和国反間諜法(以下『反スパイ法』と略称)」とはどのようなものなのか、同法の条文に従い分析することは、日本人が同様の容疑で拘束や逮捕をされないためにも、必要なことであろう。

党独裁下の徹底したスパイ防止体制
全公民・全組織への義務づけ

 反スパイ法は、2014年11月1日の第12回全国人民代表大会常務委員会第11回会議で可決され、同日、国家主席令第16号として公布され、同日付で施行された。

 同法の目的は、「スパイ行為を防止、制止、処罰し、国家の安全を保持する」(同法第1条)ことにある。

 スパイ防止のための工作においては、「中央の統一的指導を堅持しつつ、公開工作と秘密工作を相互に結合し、専門工作と群衆工作の路線を相互に結合し、積極防御と法により処罰するとの原則を堅持する」(同法第2条)とされている。

 ここで「中央」と述べているのは、「党中央」の意味であり、スパイ防止工作に対する党の絶対指導が、同法の原則の筆頭に挙げられている。反スパイ工作では軍と同様に、「党中央の絶対指導」原則が貫かれている。

 軍と公安関係機関は、国内外の敵対勢力に対し、一党独裁支配を力で直接支える「暴力装置」である。

 党中央は、この両実力組織に対する絶対的な指揮統制権限を維持強化することを、統治原則として最も重視している。