「『産業革命4.0』と呼ばれる新しい時代を迎えて、就職活動はどう変わっていくべきかということをテーマに、多様な立場の参加者が、対等に意見を出し合って、考え、かつ行動する」。イベント冒頭では、司会を務めたタクトピア 共同創業者 CEOの長井悠(ながいゆう)氏が、「就活未来会議2019」の趣旨をこのように説明した。
イベントには、企業関係者、大学関係者、大学生などおよそ200名が参加した。2018年も就活未来会議を開催しているが、その参加者は50名ほどだったという。経団連が就活ルール策定を止めると決めたことにより、その後の就職活動のあり方について多くの関係者が悩み始めたことが、参加者急増につながっているのかもしれない。
この後、経済産業省の担当者による基調講演、企業の経営者や採用担当者によるパネルディスカッションと進み、テーブルごとに参加者が議論する。そして、それぞれの議論の内容をプレゼンテーションで披露し、就職活動に対して個人個人がどのように行動を起こすのかをまとめた「コミットメント宣言」をする。「対等に意見を出し合って、考え、かつ行動する」ことで、未来の就職活動の形を当事者自身で作っていこうというわけだ。
個人が自身のキャリアを自律的に形成していく世の中に
基調講演を担当したのは経済産業省 産業人材政策室長の能村幸輝(のうむらこうき)氏。氏は「これからの就職活動、そして企業と個人の関係は『グローバル化』『デジタル化』『人生100年時代』という世界の大きな流れが変えていく」という。例えば九州に住む人は、東京よりも台湾や中国の方が近い。このような事実に企業も個人も気づいて、企業側では国境を越えた人材の争奪戦となっており、個人としては「どこで働くのか」という点で、選択肢を日本国内の企業に限定する必要がなくなっている。
また、個人が「どこで働くのか」という点の変化については、デジタル化も大きく影響する。インターネットを活用したテレワークがここ5年ほどで急速に普及し、会社にいなくても働けるようになった。最近はコワーキングスペースが増加しつつあり、働くために必要なものが揃った場所も会社だけではなくなった。
企業もこの点に着目しており、自社の従業員にコワーキングスペースで働いてもらうことで、そこにいる多種多様な人々との出会い、そしてその先にあるオープンイノベーションを期待しているという。
そしてデジタル化は、人間の仕事の内容も変化させる。AI(人工知能)の普及によって、人間が担当する必要がない仕事が増えるのだ。ただし、これは技術の進歩によっていつの時代でも起こっていることでもある。例えば駅の改札口での切符切りの仕事は、現在では自動改札機の仕事になっている。
能村氏はAIの普及によって今後、「何度も反復する仕事をAIが担当し、より創造力が必要な仕事を人間が担当するという流れが加速する」と見ている。そして、反復ばかりの仕事の中でも専門的な知識が必要な仕事も、今後は知識をただ活用するだけの仕事という扱いとなり、AIが代替するという。専門知識が必要な仕事も人間の手を離れるという点が、従来の自動化とAIも活用した自動化の違いと言えるかも知れない。
日本はまさに少子高齢化が進行している最中だ。「これからは『人生100年』と考えて、一生を考える必要があるという。そして、少子高齢化は日本だけの話ではない、ヨーロッパ各国、中国、韓国でも近い将来にやってくる世界的な現象だ」ともいう。
人生100年となると、従来の働き方で会社に勤め、60歳くらいで定年退職すると、その後の人生があまりにも長いものになってしまう。そのため、「兼業や副業、フリーランスなど、個人が会社や社会と付き合っていくための手段が多様なものになっていく」と能村氏は予測する。一生続けられる仕事を身に付けて、正社員に限らず、兼業や副業などで、必要とされるところで仕事をするようになるということだろう。
そして、企業のビジネスを取り巻く環境はVUCA(Volatility:変動すること、Uncertainty:不確実であること、Complexity:複雑であること、Ambiguity:曖昧であること。ブーカと読む)と言われる、先が見えないものになっている。企業はこの状況に対応するために、似たような人間を揃えるというこれまでの人材採用の手法を根本から考え直す必要があるという。企業は多様な個人を集め、それぞれの個性を生かしていかないと、先が見えない現状に対応できないというのだ。能村氏は「新卒一括採用はなくならないだろうが、これからは就職ルートも、個人が活躍する場も多様化すると予測し、個人が自身のキャリアを自律的に形成していく世の中になっていくだろう」と締めくくった。