なぜ、就職活動開始時期を一律に決めなければならないのかという疑問を投げかけたテーブルもある。大学は4年で卒業するものと決めつけずに、学生が自分でやりたいことを見つけたら、あるいは良いアイデアが浮かんだら、その時点で就職活動を始めれば良いというのだ。そして、やりたいことやできることがまだ分からないなら学生を続ければ良いとも付け加える。そして企業にはやりたいことを持っている学生を支援できるような態勢をつくってほしいともいう。そして、失敗を認めてほしいとも。
そしてほかのテーブルからは、企業の情報提供も少ないが、学生の努力も足りないという声が上がった。企業が、自社を知ってもらいたいというなら、3年後、5年後の離職率、時間外労働の実際など、言いにくい部分も学生に教えてほしいと訴える。現状では学生が聞かないと企業は教えてくれないから、情報公開を官主導で進めてほしいという。
一方で学生もただただ情報を聞くだけでなく、自身のGPA(Grade Point Average)を開示しようと主張する。GPAとは、各科目の成績から算出する成績評価値。アメリカの大学などに留学する際には、学力を測る指標として使うことが多い。
日本でも、一部企業が学生の成績を選考材料として使い始めているが、まだまだ一般的とは言えない。そこで、どんどんGPAを公開し、自分たちが勉強に取り組んできたことを評価してもらうように、就職活動を変えていこうというわけだ。大学で学んできたことは社会に出ても生かせないという声は多い。ならば、勉強してきた過程を評価してもらおうと主張する。
さらに学生の情報リテラシーや、話を咀嚼する力がまだまだ足りないと指摘し、もっと身に付けようと呼びかける。ただただ会社に「情報を教えてください、分からないです」を繰り返していては何も変わらないというのだ。そして、もっと学生である自分たちが行動を起こして就職活動を変えようと、学生に檄を飛ばすように訴えかけた。
イベントの意義を高く評価する声が続出
イベント終了後、参加者や見学者から感想を聞いてみたところ、今回のイベントを開催したことの意義を高く評価する声が多く挙がった。例えば、協賛企業としてイベントを見学していた、株式会社パフ 代表取締役社長 釘崎清秀氏は「自分は60近いのだが、あらためて時代が変わったと感じさせられた。現在の就職活動の悪いところは全部分かってくれているようだ。30代中心の事業者の皆さんと20代の学生の皆さんが中心になって、これから変えていってくれるという可能性を強く感じた」と、イベント参加者の様子を頼もしく感じている様子だった。
セッションにも参加した経済産業省 経済産業政策局 室長補佐 米山侑志氏は「思っていたよりも企業と学生の断絶が大きいと感じた。これは社会的な損失だと思う。我々もどのようにしていくか考えなければならない。ただ、就職活動は個人が変われば企業も変わるというところがある。その意味ではこのイベントは非常に意義あるものだ。最後に各テーブルが発表したコミットメントを実施していってほしいと強く思った」と、イベントの意義を高く評価していた。
株式会社リンク 管理部経営企画室 広報担当 ライラ未遊氏は「新卒採用担当として参加したが、途中からはそのことも忘れて、一個人として人生について新しくいろいろな見方が得られた。これからは新卒採用業務でも、採用するというつもりではなく、自分を見つめ直すつもりで学生さんと向き合いたいと思っている」と、採用する企業側から学生に歩み寄っていく姿勢を見せた。
参加した女子学生は「現状の就職活動に不満を抱いていたが、学生だけでなく、企業も問題だと感じていることが分かったことは良かった。そして、話してみれば企業の担当者も学生も同じようなことを考えているのではないかと感じた」と語った。ちなみに彼女は4年生で内定も得ているが、納得できない部分が残っているため、もう1回就職活動に挑むという。
同じくイベントに参加した男子学生(3年生)は「これから就職活動を迎えるのだが、このイベントを主催している会社(i-plug)もオファー型ということで、就職活動の形は変わりつつあると感じる。これまでの就職活動は、学生が企業を訪問する形だったが、このイベントで、企業と学生がお互いに歩み寄っていくことができたと思う」と、就職活動のあり方の変化を確実に感じているようだった。