話題を呼んだビジネス書『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略』の共著者で、ロンドンビジネススクール経済学部教授のアンドリュー・スコット氏が2019年7月に来日し、都内で行われた金融業界向けのセミナーに登壇しました。スコット氏はセミナーと記者会見で、「人生100年時代」にふさわしい社会のあり方や、年金問題や少子化など日本社会が抱える問題について語りました。
長寿化社会を生きるための指針を示す
「年金2000万円問題」が話題になりました。老後の生活を公的年金のみに頼った場合、豊かな生活を送るためには1300~2000万円のお金が足りなくなるという趣旨ですが、それにはひとつの重要な前提があります。「95歳まで生きる」という前提です。
厚生労働省が発表した「簡易生命表」によると、2018年の日本人の平均寿命は、男性が81.25歳、女性は87.32歳。今の時点では95歳まで生きる人は少数派です。でも、今の50代、60代はどうでしょうか? 今後も日本人の平均寿命は延び続けることが予測されています。90歳、あるいは95歳まで生きる人は今以上に珍しくなくなるでしょう。長生きできるのは喜ばしいことですが、当然そのための備えが必要であり、公的年金だけではあまりにも心許ないというのが現実です。
2016年、今から約3年前に出版された本『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略』は、長寿化という現実と向き合い、社会のあり方、個人の生き方や働き方、お金との向き合い方をどう変えていくべきかというひとつの指針を示したことで、おおいに話題を呼びました。最近「人生100年時代」という言葉を聞く機会が増えたのは、この本の影響も少なからずあったでしょう。
その話題の本の共著者であるアンドリュー・スコット氏が、日本CFA協会が主催するカンファレンスのために来日。当日は記者会見も行われ、「人生100年時代」の生き方について語ってくれました。
従来の「老後」とは異なるさまざまな生き方を模索する
スコット氏の主張は「ライフステージの再構築」。年金や社会保障への懸念からどうしても後ろ向きに語られがちな超高齢社会ですが、長生きできるのは本来とても喜ばしいことであり、社会の長寿化をいかにポジティブなものにするか。少年期を指す「ティーンエイジャー」という概念や、老後の生活を支える「年金」という概念が確立したのは20世紀のことであり、21世紀には、人生100年時代にふさわしい新たなライフステージの概念が発明されるだろうとスコット氏は言います。
「年金2000万円問題」についてスコット氏は、公的年金をどうすべきかは世界共通の問題であり、老後に必要な備えは年金だけにとどまらないといいます。65歳以降の人生をより豊かにするためには、「預貯金と年金で余生を暮らす」以外の選択肢の存在が重要であり、政府は従来の社会保障だけでなく、高齢になっても働いたり学んだりできるよう、さまざまな生き方を支援することが求められると主張します。スコット氏はこれを「マルチステージライフ」という言葉で表現します。
日本には年功序列と終身雇用という慣習が根強く残っており、社会のさまざまな仕組みが、今もなお終身雇用を前提に設計されているという現状があります。いくら年金問題が叫ばれていても、「老後」という概念をなくし、人生100年時代の多様な生き方を模索する「ライフシフト」は日本社会には合わないのではないか、という質問が投げかけられました。
スコット氏は、今の現役世代は年金の受給額が親世代より少なくなるのは確実だから、やはり働き方や資産運用のあり方を変える必要があるだろうと語りました。政府が投資教育などの面で支援することも必要ではあるけれど、個人も自己責任のもとで、幸せに生きるための条件である健康の増進や人間関係の充実に向けて、早いうちから行動を起こすことが大切だと話しました。