サッカーの国際試合では必ず設けられている取材対応エリアのミックスゾーンは、この試合会場に設けられておらず基本的にメディア取材そのものがNGのためゲーム内容の詳しい詳細は判明していない。

 ただ韓国メディアは試合レポートを許された大韓サッカー協会(KFA)のスタッフを通じ、韓国代表を率いるパウロ・ベント監督が短い試合後のコメントとして、普通のゲームとは異なるムードの中で主審の判定もおかしくなっていたと不満をぶちまけたことを明らかにしている。話を総合すると、かなり怒りを募らせていたようだ。この稀有な試合を観戦した100人弱の関係者の1人で、FIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長も深いため息をつきながら「観客が1人もいなくて失望した」と各国のメディアに打ち明けている。

露呈した文在寅政権の対北融和政策の限界

 皮肉なことに、このサッカーの「歴史的一戦」の実現は韓国・文在寅大統領が推し進める北朝鮮融和路線の限界を示す格好となってしまったようだ。KFAの事情通は「韓国政府は今回の歴史的一戦を利用し、ケンカ腰の戦いになるのではなく南北の友好ムードを漂わせる試合にしようと関係者に働きかけるなどして懸命の裏工作を重ねていた。北朝鮮と手を握り合える関係であることを世界にアピールし、文政権の対北融和路線にさらなる弾みをつけようと考えていたからです。ところが逆に北朝鮮から足元を見られ、すべてが交渉過程で裏目に出てしまった」と嘆く。

北朝鮮との試合の翌々日、韓国・仁川空港で記者の質問に答える韓国代表チームの孫興民(写真:AP/アフロ)

 要は文政権の描く〝夢物語〟にKFAの関係者やサッカー韓国代表の面々が付き合わされる形となり、思わぬとばっちりを受けたのだ。しかも態度を硬化させた北朝鮮側の禁止事項にも散々振り回された挙句、最後は無観客試合という「馬鹿にされた結末」で顔に泥を塗られた。

 今月4日にソウル蚕室総合運動場で行われた第100回全国体育大会開会式に出席した文大統領は「この場で2032年ソウル・平壌五輪が開かれる日を願っている」と意気揚々とコメントしている。2028年ロサンゼルス大会の次回五輪開催地として南北共催で立候補したい考えをあらためて訴えてみせたが、具体的進展は一向に見られないのが現状だ。