それ以前の2013年の夏にはロシアの新聞ノバヤガゼータがイタリア・スイス国境のマッジオレ湖畔にがチェルカリン大佐名義の高級不動産物件が登記されていることを報じていた。

 その規模に驚いている場合ではない。彼らは一体どうやってこのような多額の賄賂を手に入れたのだろうか?

 ロシアで調査報道を得意とする「The Bell」がその経緯を詳細に報じている。以下はロシアの大手金融グループ「Life」の共同設立者であったゼレズニャク氏が2019年に米国の商事裁判所で証言した内容である。

 チェルカリン大佐との最初の出会いは2014年夏のことである。大佐は制服ではなく私服で運転手付きのレンジローバーに乗ってやってきた。腕にはロレックスの腕時計が光っていた。

 大佐はグループの銀行であるプロビジネスバンクにFSBのOBを副頭取として送り込むことを提案した。

 年俸は12万ドル、さらに個室に運転手と秘書を要求した。これはロシアにおいては好条件であるが、目玉が飛び出すほどの待遇ではない。

 それから程なくしてゼレズニャク氏はLifeグループの株式の一部を別会社に譲渡することを提案された。その別会社はFSBや検察庁の高官に対する利益供与に使われるためであった。

 要するに、FSBはOBを銀行に送り込み、セキュリティ・オフィサーとして銀行の資金の流れをすべて把握させる。

 そして疑わしい取引に対しては、それを見逃すというよりも積極的に隠蔽する(中銀や税務当局に対して)ことによって銀行から一定の賄賂を受け取っていたのである。

 FSBはモスクワのみならず地方にも堅固なネットワークを築いている。こうしたネットワークを活用してキャッシュ輸送まで手がけていたことも判明している。