スタンドで声援を送った仲間たちに手を伸ばすベンチ入りメンバーたち(著者撮影)

甲子園に13年連続で出場する。それはすなわち、県大会を13年間負けなかったことを意味する。前人未踏の偉業は強豪の証。では、その強豪たる理由は何か? 本大会に出場するも「選手を引退」し、最後の甲子園を迎える男がいる。聖光学院が持つ、唯一無二のパワーを『負けてみろ。』の著者でもある田口元義が描く。

偉業達成、スタンドにいた3年生とグラウンドにいた3年生

 いわきグリーンスタジアムの三塁側ブルペンの壁際で、13年連続で夏の甲子園出場を決めた聖光学院のメンバーが飛び跳ねていた。

 高さ2メートルほど位置から、スタンドで声を嗄らした22人の3年生控え部員たちが金網越しに手を懸命に伸ばし、優勝を届けた20人のメンバーたちと歓喜の〝ハイタッチ〟を交わしている。

 阿部! 阿部!!
 控え部員が笑いながら叫ぶ。背番号「16」の阿部拓巳は、集合写真の撮影時間が迫ってもジャンプし続けていた。

「ありがとう! ……ありがとう!!」

 その目は、真っ赤に腫れていた。

「優勝して甲子園を決めたことにホッとしています。自分なりに役割を果たせた充実感はありますし、甲子園に出る選手に想いを託すことができます」

 プレーヤーとしては、この県大会が最後の舞台となる――阿部は達観していた。

「自分は甲子園でプレーできない」。そう悟ったのは、甲子園のベンチ入りが県大会より2名少ない18人といった、システム上の都合からではない。

 最初に本人の口からその意思を聞いたのは、3回戦の福島西戦後だった。この試合、阿部は6回にチャンスで代打として登場し、コールド勝ちを決めるセンター前安打を放った。

「代打に出してくれた監督の期待に応えられてよかったです」