こうした「迷走」にも関わらずテレビや新聞で連日伝えられるKPUの開票状況でもプラボウォ氏の獲得票は常にジョコ・ウィドド大統領に10ポイント前後水をあけられ、その差が大きく縮まることは最後までなかった。
デモ参加者に現金
当初KPUの集計結果は22日が予定され、同日に合わせてプラボウォ陣営、支持派は大規模なデモを予定していた。「選挙の投票、そして開票で多くの不正があった」と訴えて選挙のやり直しを求める国民的運動へと拡大することを狙って、フィリピンのマルコス独裁政権を打倒したことにちなむ「ピープルパワー」を掲げたのだった。
ところが、KPUの結果発表が1日早まり、21日午後から夜にかけてジャカルタ中心部タムリン通りに面した選挙監視庁(Bawaslu)とKPUのあるメンテン地区に多くの群衆が無統制に集まり、一部が警備警戒に当たる警察・軍と衝突、騒乱状態になった。
タムリン通りにつながるタナアバン地区では21日深夜から22日未明にかけて群衆が警察施設や車両、屋台などに放火するなど暴徒化し、混乱の中で市民6人が死亡する事態となった。
タムリン通りでも投石、花火に警察は催涙弾、放水で対抗、多数の負傷者と逮捕者を出した。
警察は逮捕したデモ参加者から多数の白い封筒を回収、中に現金30万ルピア(約2300円)が入っていたことから「デモ参加者は政治的動機とは無関係の手当てをもらって周辺地域から駆けつけた貧困層住民である」と発表。
さらに複数死者の死因が銃撃によることに関し「治安部隊は今回の鎮圧で実弾を所持していない」と治安部隊側の発砲を否定、群衆から押収したという拳銃や小銃、実弾を会見で示して「事態を悪化させようとするプロボカトールの犯行」を印象付けた。
インドネシアのプロボカトールの正体
1998年のスハルト長期独裁政権を打倒した民主化運動の高まりの中でよく使われたこの「プロボカトール」とはデモや集会で市民に紛れ込みアジテーションや投石、あるいは刃物や銃器を使用して事態を悪化させ、治安部隊との衝突を「演出」させる「扇動者」のことで、集団で同時多発的に事態悪化を企図することで知られている。
今回再びその「プロボカトール」という一定年齢以上の国民には懐かしくもおぞましい言葉が出たことで、騒乱の構造が垣間見える。