(文:国末憲人)
(※本記事は新潮社フォーサイトに掲載された「英国の「移民」考(中) 「問題」は仕立て上げられた」を転載したものです。前編と後編は以下のとおり)
英国の「移民」考(上) 内務省が犯した「計算ミス」
英国の「移民」考(下) 「EU市民」から「本当の移民」へ
英国への旧東欧からの「移民」のうち、最も多数を占めたのはポーランド系だった。
欧州連合(EU)東方拡大時の2004年の統計を見ると、英国に暮らす外国生まれの人数で最も多いのは50万人超のインド、続いてアイルランド、パキスタンの順で、ポーランド生まれは15位の9万4000人に過ぎない。これが翌年16万2000人、06年26万5000人と急増し、2017年には92万2000人に達した。これは、インド系を10万人近く上回ってトップである。
EU離脱派が逆転を狙って利用した
これほど増えると、英国内で反発が出ても当然のように見える。「移民」の増加とともに市民の間に反移民意識が芽生え、「英国人から雇用を奪うのでは」「英国の福祉を食いものにしかねない」といった懸念が増幅され、EU離脱派の主張に結びつく――。容易に想像できるストーリーである。
ただ、実際にはそれほど直線的にことが進んだわけでもない。市民は、必ずしも常に「移民問題」に関心を抱いたわけではなかった。
大手調査機関Ipsos MORIが「国が直面する最も重要な課題は何か」を尋ねた世論調査によると、1994年の調査開始時で英国民が最重要テーマとして挙げたのは国民医療制度についてであり、経済、住宅問題、EU共通市場が続いた。「移民問題」は5%にも満たず、主要5課題の中で最も興味を呼ばないテーマだった。その後、90年代を通じて「移民問題」は1桁台にとどまっていたが、世紀が変わるころからじわじわと注目を集めるようになり、2000年代半ばからは国民医療制度とトップを争った。もっとも、2008年のリーマン・ショックを機に経済への関心が圧倒的に高まり、「移民問題」の重要性は再び低下した。
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