この例だけに限らず、最近の米新聞では大掃除をするという動詞として「こんどうまりえ」「こんどう」「こんまり」を使う例をよく見かけるようになった。2014年に英語版を出版して以降、一部の米国人に「お掃除の専門家」として知られてきた近藤さんの知名度は、ネットフリックスでの動画配信をきっかけに一気に全米に拡散。人気コメディアンのエレン・デジェネレスさんやスティーブン・コルベアさんが司会を務める高視聴率番組にもゲスト出演し、「本屋に足を運ばない」や「有料配信サービスのネットフリックスは見ない」といった人たちに対する露出も増えている。米ニュース局CNNは今年1月、米国の非営利団体や中古品買い取り店舗に持ち込まれる洋服や本の数が例年の水準より高くなったことについて、「こんまり効果ではないか?」と報じている。
「こんまり揶揄」が原因で謝罪に追い込まれた有名作家
全米を席巻している感のあるこんまりブームだが、人気が出れば「アンチ」が増えるのは日本でもアメリカでも一緒だ。例えば、書籍1冊1冊に触りながらときめくかどうかで本を整理する行為が多くの作家や読書家の逆鱗に触れた。
米有力紙ワシントン・ポストには「コンドウマリエ様、私の山積みの書籍には触らないで下さい」という見出しの記事を文芸評論家が執筆。小説家のアナカナ・スコフィールドさんはツイッターで「本に関しては、こんまりに耳を傾けないで。アパートも世界も本で埋め尽くそう」と訴えた。「ときめくものだけとっておきましょう」という分かりやすいメッセージが近藤さんの人気の理由だが、下着やタッパーを捨てるのと同じ要領で書籍を扱うことには違和感を覚える米国人が多くいたようだ。
ジャーナリストでベストセラー作家のバーバラ・エーレンライクさんは、「お掃除のグル、コンドウマリエが英語を習い始めたら、米国の影響力は衰退していないって認めるわ」とツイッターでつぶやいた。ネットフリックスの番組内では、近藤さんは専属の通訳を通じて顧客とコミュニケーションをとっている。だがこちらのコメントには、多くの米国人から「こんまりが英語を話せないことを皮肉った差別ではないか」と批判が集中、エーレンライクさんのほうが「英語を話せないことを問題視するつもりはなかった」と謝罪する事態に発展した。特に低賃金労働者や女性の権利などマイノリティー問題に強いジャーナリストのエーレンライクさんがこうした発言をしたことが反発を呼んだ。米国の「こんまりファン」に近藤さんが守られた格好だ。