年末年始などに久しぶりに帰郷してみたら、年老いた両親がどうも耳が遠くなり、テレビを観るボリュームも大きくなっていた――。
そんな方も多いのではないだろうか。歳だから仕方ないとはいえ、明日は我が身と思うと他人事ではない。
目が悪くなればメガネで何とかなるけれど、補聴器というのは・・・いや、まだ早いだろう。
さりとて難聴はなかなか治らないとも聞く。最近では、イヤホンで音楽をずっと聴く若者たちのいわゆる「イヤホン難聴」も深刻だという。
多くの方がいずれは見舞われるだろう耳の問題。今から打てる手立てはないのだろうか。
東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科の山岨(そば)達也教授(医学部副学部長)にお話をうかがった。(聞き手:川嶋諭、編集:松浦由紀子)
難聴の仕組みと種類
川嶋 人生100年時代と言われる中、耳をケアしておかないと、豊かな老後が送れないのではないかと心配になってきます。
若者たちが「イヤホン難聴」になるリスクも深刻で、一度失った聴力は、なかなか回復しないと聞きます。
まず、なぜ歳を取ると耳が遠くなるのか、どうして聴力は回復しないのか、難聴の仕組みから分かりやすく教えていただけませんか。
山岨教授 では、最初に音が伝わる仕組みから説明しましょう。
音というのは物理的なエネルギー、つまり振動で、音波として耳に到達します。音波で鼓膜が振動し、さらに鼓膜の中にある耳小骨が振動することで、音を内耳の神経組織に伝えます。
内耳では感覚上皮という板のようなものの上に有毛細胞という神経細胞が並んでいて、音の振動が伝わって神経が興奮していきます。