今年の5月にJ2・栃木SCのマーケティング戦略部長に着任した江藤美帆さんは言った。
「サッカーを健全な商売にしたい」。
渋谷にあるIT企業・スナップマート株式会社を立ち上げた注目の経営者の言葉だ。こうも言っている。
「以前まではお金を儲けることが正義で、利益を出せば経営者としては合格点だったわけです。でも、サッカークラブの場合は、すごい黒字になっても、じゃあ降格しました、ではだめなんですよね。だから、ただお金を儲けるだけではなく、それを正しく、強くなるために使っていく必要があるわけです」
人気の裏で、収益の面で課題も多く指摘されるサッカー界。異業種から飛び込んだマーケティング戦略とはどんなものになるのだろうか。
小さなクラブでも先進的なマーケティングはできる
――さまざまな課題を認識されている中、まず取り組むべきことはなんでしょうか。
「そうですね・・・いろいろあるのですが、まずはデータを取りたい。今、マーケティングデータが全然ないんですね。ホームゲームの来場者が、どこから来ていて、何歳くらいで、性別は・・・というデータすらない。これが分からないと、例えば広告を売るにしても、〇〇という人に訴求できますよ、という出稿側のメリットを提示できません。結果、お願い営業、土下座営業になってしまう」
――まずデジタルマーケティングでは当然のように行われていることをしっかりと取り入れたい。
「そうですね。データをきちんと取って、毎試合宇都宮市内から女性が○○人来ていますよ、とか、〇歳くらいの人が多いんですよ、と言えれば、それならば広告を打ちたい、というクライアントが生まれてくる。だからがんがんデータを取っていきたいんですが、それもシーズン中の今すぐにはできなくて、来年からになりそうですね。来年スタートをして、再来年から活用というイメージになります」
――確かにスポーツ業界では、メリットを踏まえてスポンサードしてもらうというより、イメージや付き合いの中でお願いする、という雰囲気があります。じゃあ、スポンサーはお金を出したことで自社の売り上げが上がったか、という点は言及されづらい。
「そうなんですよね。投資対効果が低いんだと思うんです」
――栃木という場所から、スポンサーとクラブがしっかりとメリットを享受する関係を作っていく。それが「サッカーを健全な商売にする」。
「はい。大きいクラブに比べて小回りが利くので、やろうと決めればぱっと動けますから。デジタルを活用することで小さなクラブでも先進的なマーケティングができるのではないかと考えています。データを取るにはある程度の投資が必要なんですけど、そこまで大きな額ではないし、それに精通した人材さえいればできますからね」