「高性能カメラでプレーヤーの動きを捉えることで様々なことがデータ化されました。たとえば外野手がフライをダイビングキャッチでアウトにしたプレーがあったとします。プレーだけ見ればファインプレーと呼ばれていたでしょう。しかし、データはその動きが本当に素晴らしいものだったのか、それとも打球への反応速度が遅かったり、正しいルートで追いかけなかったから、飛び込まなければならないギリギリのプレーになってしまったのか、を判断できるようになりました。また、トラックマンで投球の回転数などを計測することにより、これまで“ボールのキレ”と表現されていたものの正体が判明しつつもあります」

 メジャーにおいてはこの膨大なデータが全球団で共有されている。ではそんな中で勝敗を分けるポイントはどこにあるのか。斎藤さんは言う。

「データはもちろん素晴らしいんです。ただ、データの進化のスピードが速すぎるというか・・・。勝敗を分けるのは、そのデータをどう生かすか、実際にグラウンドで実践するかにあって、データを取ることで勝率が上がるわけではないのです。それが先ほど言ったアウトプットの重要性という意味です」

 相手打者の苦手なコースがデータによって判明したとしても、そのコースに投げる技術がなければ、そのデータは意味をなさない。

「先ほどマダックスのインプットの話をしましたが、彼にはデータ通りに相手の弱点をつけるアウトプット力もありますからね。投手だけではなく野手も含めてトッププレーヤーたちは、試合で本当に瞬間的な判断力とか技術力の攻防を繰り広げているわけです。職人的な感覚の世界と言ってもいいでしょう。データを感覚の世界に落とし込む方法論、そしてその作業を手伝える人材。メジャーリーグでは現在、各チームがクオリティ・コントロール・コーチという役職を置き始めていて、主にデータに精通した元選手が、データとプレーヤーの橋渡しをするようになってきています。ただ、まだ完全に機能しているとはいえない。人材が不足しているし、それは日本のプロ野球でも同じ事情だと思います」

 次回は斎藤さんに「データによって選手はうまくなるのか?」(メジャーで尋ねられた「なぜイチローと柳田は…)を聞く。