夏の甲子園をかけた第96回高知大会、対高知農業高校戦。1点を先制された直後の4回表にスクイズで同点に追いつくも、5回に1点、7回に2点そして8回にも1点を追加され1対5。春の雪辱。憧れの甲子園――彼らの夢は、早くも終わりを告げた。

 試合後、エース・松浦と捕手・山本はクールダウンのキャッチボールを始める。いつもなら十数球で終わるキャッチボールはなかなか終わらない。目には涙が溢れ、いつしか球数は数十球にもなっていた。

 サードを守った佐竹、サードコーチャーとして声を枯らした片岡・・・誰も頬を濡らし、思っていた。

――このチームを終わらせたくない。

 もっとも泣いていた監督の高橋は絞り出すように言った。

「負けたことではなく、お前たちと明日から野球ができなくなることが寂しい」

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「今でも、あのときの経験が役に立っています」

 現在、高知工業高校で野球部の監督をしている高橋は言った。野球の競技人口減少が避けられないこれから、連合チームの数は増えていくだろう。一つの高校ではなくとも、ともに戦える仲間がいる。高校野球生活にかけがえのないものを、彼らは手にしていた。(文中敬称略)