昨年12月16日に実施されたエコノミスト・カンファレンス「ジャパン・サミット2010--日本における世代シフト、新たな時代のリーダーと変革のビジョン」。
昨日の第1回「次世代へ向けたリーダーのビジョン」に続くダイジェスト第2回は、「アジアにおける日本」。
パネリストは、日本総合研究所・国際戦略研究所理事長の田中均氏、富士通総研・経済研究所主席研究員の柯隆氏、拓殖大学大学院教授・海外事情研究所所長の森本敏氏、コンサルタント・元外交官のロドニー・アームストロング氏、ジョーンズ・デイ法律事務所パートナーで前鳩山由紀夫内閣総理大臣主席秘書官の佐野忠克氏。司会はエコノミスト誌東京支局長のヘンリー・トリックス氏。
中国に対しては抑止力強化と信頼醸成を同時に行う必要あり
トリックス 日本外交の今後の方向性についてお考えをお聞かせください。
田中 まず申し上げたいのは、この数年で基本的なバックグラウンドが変わってきたことです。米国の力と権威が低下し、同時に中国をはじめとした新興国が力と自信をつけてきた。これは世界が多極化に向かうひとつの章立てだと思うんですね。
こうした変化を念頭に置いた上で、私が外交の基本的な方向性として指摘したいのは3つのことです。
まずは抑止力の強化です。北朝鮮の挑発に対して果たすべき役割が一番大きいのは中国ですが、その中国をめぐる不確実性、将来的な政策の不透明性に対しても抑止力を維持していく必要がある。そのためには日米韓、とりわけ日米の同盟関係がとても重要です。
軍事面だけでなく、政治や経済の抑止力も考えなければいけません。レアアースなどはいい例ですが中国に97%も依存している現状をあらためる。インドやベトナム、インドネシア、オーストラリアといった国とのパートナーシップを強化すべきでしょう。
しかし中国はソ連とは違います。孤立化政策は成り立ちませんから、抑止力を強める一方で信頼を醸成することも必要です。災害救済、海賊対策といったことでASEAN(東南アジア諸国連合)+6や米国、ロシアなどと共同行動の枠組みを作ってもいいと思います。
そして、ルールメーキングと基本的なマクロ政策の調整です。マクロ政策は金融・経済だけでなく、環境・エネルギーといったことも含めて、東アジアをベースにやっていくべきだと思います。貿易自由化についてはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と同時並行的に、東アジア経済連携協定といったものを推進していく必要があるでしょう。
大切なのは中国がルールに従い、より建設的な対外政策を打ち出すように仕向けることで、そのためには以上3つを日本の外交政策の基本にすべきだと思います。国際社会が静かなプレッシャーをかけ続ければ、中国は必ず変わるはずです。
その上で普天間問題について触れるなら、現状からすると基地の移設が実現する可能性はほとんどないと思います。だから普天間の問題から日米関係を議論するということは避けなくてはならない。
まずは私が申し上げたような変化の認識とそれに対する施策を、日米で話し合うことがどうしても必要です。普天間の話は出口の議論として出てくることではないかと思います。