実は、この図では進化の一面しか表現されておらず、進化の本質を見落としてしまう可能性があるのです。

 どういうことでしょうか。

 進化論を唱えた人物で一般的に最も知られているのはチャールズ・ダーウィンです。実は、ダーウィンは「進化(evolution)」という言葉を使っていませんでした。あえて使わなかったのです。

 では、どのような表現をしているかというと、著書『種の起源』の中で彼は "Descent with modification" (変化を伴う系統)という表現をしています。この考え方は、彼が描いた次の樹形図に端的に表れています。

チャールズ・ダーウィンの『種の起源』に掲載されている樹形図(出所:Wikimedia Commons
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 現在の我々の視点から振り返って見ると、現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生するまで一直線に進化してきたように見えます。しかし、生物界全体を俯瞰して見ると、実際にはこの樹形図のように様々な分岐があったのです。その多くが衰退し、適応できた系統が結果的に残っているに過ぎないのです。

 また、「進化」の元の英単語「evolution」にも、そのことが表れています。「evolution」の語源であるラテン語の「evolve」は「巻かれたものを展開する」という意味で、絵巻などを開く時に使われる言葉です。まさに、ダーウィンが描いた樹形図のように、生命の絵巻物が展開されていくのが「evolution」。この言葉には本来そのようなイメージが内包されているのですね。