これまでの人生を見つめ直し、いったんリセットしたくなったとき、建築に着目して旅に出てはいかがだろうか。

 本記事では、日本国内にある光の効果で強い印象を残す建築を8件選んで、2回に分けて紹介する。いずれも、感動的な建築体験が可能な場所である。記事を読むだけではなく、ぜひ現地に足を運んでほしい。そこへの旅は、その後の人生に影響を与えるできごとになるかもしれない。(写真はすべて著者撮影)

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光の効果で強い印象を残し、感動的な体験ができる建築8件 上
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53045

島根県立美術館

島根県立美術館、松江市、設計:菊竹清訓建築設計事務所、竣工:1998年

 「島根県立美術館」は宍道湖のほとりに建つ美術館。一枚の紙を切り抜いてたわませたような、不思議な形をした屋根が架かっているが、高さが抑えられているので、遠目には手前の水面と背後の山並みに挟まれた銀色の細い線にしか見えない。

 建物に入ると、広いエントランスロビーからは、ガラス越しに湖の風景が広がる。ロビーを歩いていると、その日の日没時刻が掲示されているのに気付く。実はこの美術館、春から秋にかけての季節は閉館時刻が一定でなく、日没後30分と決まっている。つまりこの美術館では、展示作品だけでなく、ここからの夕陽も鑑賞してもらいたいというわけだ。その時刻を待ってテラスに出ると、沈みかけた太陽が宍道湖の水面に反射し、さらにそれが建物のガラス面にも映り込んで、4つに増えている。4倍の美しさで目に飛び込んでくるのだ。

 設計者の菊竹清訓は、高度経済成長期にメタボリズムという建築理論をひっさげて建築界に華々しく登場した建築家。その建築は理論をそのまま形にしたような強引さが魅力となっていたが、晩年に手がけたこの作品では、周囲の環境に対する優しさがうかがえる。建物が自己主張するのではなく、景観の中に消えていこうとしているかのようなのである。