新しい年が明けて、はや半月が過ぎた。お屠蘇気分も抜けたところに昨年末のテレビ番組を話題に持ち出すのは申し訳ないけれど、今回もM-1グランプリは面白かった。

 結果は、10年連続出場の「笑い飯」が待望の栄冠を勝ち取ったわけだが、最も注目を集めたのは初出場の「スリムクラブ」だと言っていいだろう。私も初めて見るコンビで、いかつい日焼け顔にざんばら髪の男と、色白で坊主頭の男とがステージに現れた時は2人の異形に目を見張った。

 向かって左側に立つざんばら髪が真栄田賢、右側が内間政成というのだが、名前と顔を一致させる間もなく漫才が始まって、まずは真栄田のしわがれ声と、それに似合わない人懐こい話しぶりに、これはいけるのではないかと期待を持った。そして期待はすぐに確信へと変わる。

 「なかなかね、勘違いに気づかない人って困りますね」という前ふりで話を始めると、その場で歩き出した内間を真栄田が呼び止める。

 「すいません。間違ってたら失礼ですけど、あなた以前、私と一緒に生活してましたよね」

 質問の内容もシュールだが、真栄田の一言一言を確かめるような慎重な話しぶりに会場から笑いが起こる。凄かったのはそこからで、唐突な問いかけを受けた内間は戸惑いの表情を浮かべて真栄田を見つめ、2人はそのまま6~7秒間も言葉を発することなく対峙し続ける。

 観客の反応も戸惑い気味で、ただしこれまで見たことのないコミュニケーションのありようを突き付けられて、このあとどのように展開していくのかと期待する空気が会場に充満しているのがテレビ画面を通しても伝わってくる。

 「してません。人違いですよ」

 ようやく口に出された内間の返答に笑いが起きる。しかし、右手の人差し指を立てて抗弁しようとする真栄田の話を聞こうと観客はすぐに静まる。

 「いいえ、あなた。毎晩私にお話ししてくれたでしょ。この世で一番強いのは、放射能て」

 意表を突く証拠の提示に会場は笑いに包まれ、内間はさらに戸惑いを深めて相手を見つめ、内間の返事を待つ真栄田との見つめ合いが笑いを増幅させる。