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G7サミット開幕、各国首脳が一堂に 伊タオルミナ

先進7か国(G7)首脳会議(サミット)が開催されているイタリア・シチリア島のタオルミナで、昼食会に臨む各国首脳(2017年5月26日撮影)。(c)AFP/Justin TALLIS〔AFPBB News

(文:青柳 尚志)

 イタリア・シチリア島の保養地、タオルミーナ。ローマ帝国時代の遺跡の宝庫というべき、人口1万人あまりのこの街が、今年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の舞台になった。暴れん坊のトランプ米大統領が乗り込むことで、ちゃぶ台返しが起きるのではないか。そんな懸念がささやかれたが、米国と欧州の首脳はすんでのところで踏みとどまった。

1年前とは大違い

 今さらG7サミットという気もするが、年後半の国際政治と世界経済の方向を占ううえでは大切なので、ちょいとおさらいしておこう。まずは5月27日に発表された首脳宣言から。パラグラフ12は、北朝鮮を名指ししてこういう。

「北朝鮮は、国際的な課題における最優先事項(a top priority in the international agenda)であり、度重なる、また、現在進行中の国際法違反を通じて、国際の平和及び安定並びに不拡散体制に対しなお、一層、重大な性質を有する新たな段階の脅威(new levels of threat)となっている」。こう述べて、北朝鮮に核・ミサイル計画の「完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄」を求めている。核実験と弾道ミサイルの発射に対しても「最も強い言葉で(in the strongest terms)非難」する。北朝鮮による日本人拉致問題についても「即時解決」を要求している。

 日本のメディアの好む表現を借りれば、核・ミサイル、拉致の問題で、北朝鮮への非難を「国際社会の声」にすることに成功したのである。安倍晋三首相がトランプ大統領との間で結んだ兄弟仁義が、G7外交の場で生かされた形となる。これを1年前の伊勢志摩サミットの首脳宣言と比較しよう。

 安倍首相が議長を務めた伊勢志摩サミットの宣言では、昨年1月の核実験および弾道ミサイル発射を「最も強い表現で非難」から始まり、国連安保理決議や朝鮮半島をめぐる6者協議の合意順守を訴えている。もちろん拉致問題へも「国際社会の懸念に直ちに対処する」ことを求めている。当時は、日本が無理に北朝鮮の問題を押し込んだなどという解説も聞かれたが、今年の宣言と比べれば何と微温的なことだろう。

 因みにドイツの保養地エルマウで開かれた2015年のG7サミットの首脳宣言では、延々とウクライナ問題が語られ、北朝鮮問題は次の1文だけ。「我々は、北朝鮮による核及び弾道ミサイル開発の継続、並びに甚だしい人権侵害及び他国の国民の拉致を強く非難する」。アジアのことは中国でのビジネスにしか関心のないメルケル独首相や、ウクライナの失策を糊塗しようとすることしか念頭になかったオバマ大統領(当時)の、心根がクッキリと透けてみえるような中身だった。

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