東芝は2月14日に予定されていた四半期決算の発表を1カ月延期し、非公式の「業績見通し」を記者会見で発表した。それによると原子力事業の減損は7125億円にのぼり、株主資本は1912億円の債務超過になっているという。
「不適切会計」が発覚してから2年以上たつが、東芝の経営危機の全容はいまだに不明だ。マスコミはそれを「粉飾決算」と批判するが、関係者によると「経営陣が巨額の損に気づいたのは去年12月だった」という。つまり東芝の経営陣は、粉飾すべき本当の数字を知らなかったのだ。
東芝が「オプション契約」で負った無限責任
東芝の子会社であるウェスチングハウス(WH)は、アメリカで4基の原発の工事を進めている。WHが2015年10月に原発工事会社ストーン&ウェブスター(S&W)を親会社のIC&Bから買収したときの「のれん代」(買収価格と簿価の差額)は105億円だったが、それが昨年末に「数千億円」と発表され、年明けに7000億円以上にふくらんだ。その原因は、原発工事の特殊な契約を東芝が理解していなかったためと推定される。
WHが原発工事を受注したのは2008年だが、福島第一原発事故で2011年からアメリカでも安全規制が強化され、工期が2年以上遅れた。その損害を当初は工事を請け負ったS&Wが負担したが、その賠償をWHに求めて訴訟を起こした。それに対抗してWHがS&Wを買収したが、これが失敗だった。当初は1億ドル程度とみていたS&Wの電力会社に対する損害賠償が、4基で合計61億ドル(6900億円)にものぼることが判明したのだ。
これは日本人には分かりにくいが、アメリカの電力会社は原子炉を固定価格で調達して、リスクをベンダー(原発メーカーと工事会社)に負わせることが多い。複雑な契約で損失の負担が決まっているが、WHがサウスカロライナ州で建設している2基の原発について、電力会社(スキャナ電力)は5億500万ドルを支払って固定価格オプション契約で損害をゼロにした。
オプション契約は掛け捨ての保険のようなもので、事故や工事の中止などが起こったときはオプションを行使できる。これを電力会社が買うと、何も起こらないと電力会社の損になるが、増えたコストはベンダーがすべて負う無限責任になるのだ。