経済産業省の「東京電力改革・1F問題委員会」は12月9日、福島第一原発の廃炉や賠償などの費用の総額が21兆5000億円にのぼるという試算を発表した。特に奇妙なのは、事故前に集めるべきだった費用を「過去分」として託送料(送電料金)から徴収する方針だ。これは損害保険の保険料を事故後に払わせるような超法規的な「課税」だ。
有識者会議の伊藤邦雄委員長は、記者会見で「理屈上は納得できないかもしれないが、国難を国民全体の理解をもって解決していくことが大切だ」と述べたが、彼は会計学者としてこの試算に納得しているのだろうか。学問的良心を国に売り渡して、莫大な「国難」を作り出しているのではないか。
「デブリ」を30年かけて除去する意味はない
費用の内訳は下の表のようになっており、従来の合計11兆円という見積もりがほぼ倍増した。このうち東電の負担は15.9兆円だが、今の計画では、この不足分は2020年から59年まで40年かけて託送料に転嫁し、廃炉費用は30年かけて東電が払うことになっている。
同社の純資産は2.3兆円なので、普通に計算すると13兆円以上の債務超過になる。世耕弘成経産相は「必要な資金として算定したもので債務超過ではない」と弁明したが、16兆円もの債務を40年かけて払うという計画は、普通の企業では監査法人が承認しないだろう。来年3月末までに合理的な計画を出さないと、東電の決算ができないおそれがある。
この負担が電気代に転嫁されると、東電の利用者2000万世帯が1世帯80万円も負担することになる。首都圏では、もう製造業は成り立たないだろう。壊滅するのは東電ではなく、日本経済である。