1.インバウンド客急増の震源地は中国における中間層拡大
今年に入って中国人を中心とする外国人旅行者の「爆買い」の勢いが衰えていることが懸念されている。しかし、インバウンド旅行客の勢いが衰えたわけではない。
中国人を中心とする外国人旅行客の倍増、円安、中国関連の運び屋による大量買い付けなど様々な要因から去年の「爆買い」が異常だっただけである。
日本政府観光局(JNTO)の統計によれば、今年の1~5月のインバウンド旅行客はすでに972万人に達し、前年比+29%増と相変わらず高い伸びが続いている。
トップ3の国・地域は、1位が中国で249万人、前年比+45%増、2位が韓国で204万人、同+30%増、3位が台湾で、176万人、同+22%増。距離が近くて比較的気軽に行けるのがこれらの国・地域の旅行者が日本を選んだ理由の1つであることは明らかだ。
日本を訪れる旅行客の多くがリピーターであるため、1回目に来た時のような「爆買い」型消費行動は取らなくなっている。リピーター旅行客の日本旅行の主目的はモノの消費ではなく、コトの消費である。
インバウンド客のコトの消費の主役である中国人旅行客は沖縄から北海道に至るまで、全国各地の日本企業にとって極めて重要なビジネスのターゲットである。その母集団は中国国内で急速な拡大が続いている中間層だ。この中間層こそ日本企業にとって最も重要な顧客層である。
本年入り後、中国国内では日本車販売の好調が続き、中国各地の地方政府や中国企業の日本企業に対する誘致・提携姿勢が積極化ていることから、多くの日本企業は、今年は昨年より商売がやりやすくなっていると受け止めている。
その背景は中間層の拡大に伴う日本製品・サービスの潜在需要の増大基調である。
先日発表された中国の第2四半期のGDP(国内総生産)成長率は6.7%と、以前の2ケタ成長の勢いはない。中長期的にはGDP成長率は緩やかな低下傾向を辿っている。
しかし、日本企業の顧客層となる中間層の都市人口は、現在の4億~5億人から2020年には8億~9億人に達する見通しで、今後も2ケタの伸びが続くと推計される。この拡大を続ける中間層が日本旅行へのインバウンド客急増の震源地である。
足許の中国経済の国際収支、財政および物価の安定性から見て、中間層の拡大が2020年まで続くのはほぼ確実である。
したがって、中国からのインバウンド客増大の勢いは少なくとも2020年までは衰えないと見るべきである。これは日本企業にとって需要の大きな伸びが期待できる、国内においては数少ないビジネスチャンスである。