世界的なバブル崩壊に見舞われた日米の中央銀行が足並みを揃え、リスク資産を買い取る新たな領域に踏み出した。デフレ対応の金融緩和策は日銀の経験則に照らせば、「ゼロ金利」→「量的緩和」となる。そのいずれでもない第3の道は、当然ながら緩和効果のより強い進化した政策のはず。仮にこれを「質的緩和」と名付けたうえで、その実態と行方を検証してみた。

【図解】米FRB、欧州主要中銀の政策金利の推移

米欧州中銀の政策金利〔AFPBB News

 昨年12月16日、米連邦準備理事会(FRB)が決定した措置は「事実上のゼロ金利」、あるいは「量的緩和」などと一斉に報じられた。だが、声明を仔細に分析すると、そのいずれでもない。その柱は(1)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%に設定(準備預金は0.25%を付利)、(2)市場機能支援や景気刺激のため、バランスシート(B/S)を高水準に維持、(3)不動産市場支援に向け、エージェンシー債や不動産担保証券(MBS)を買い切り――などである。

 この時点で、FF金利は0.25%を大幅に下回って推移しており、決定した誘導目標の水準は現状追認に過ぎない。しかも、準備預金への付利は、ゼロ金利を目指す政策ではないことを意味する。また、準備預金やB/Sの規模にターゲットは導入されず、「量的緩和策」でもない。新たな措置として注目されるのは、エージェンシー債などの買い切りだ。

 その3日後、日銀は(1)0.10%への利下げ(準備預金付利も同水準)、(2)国債買い切りの増額(調節上の技術的対応)、(3)コマーシャルペーパー(CP)買い切り――などを決めた。このうち、従来にない方策がCP買い切り。つまり、FRBも日銀も金融緩和を進める上で、エージェンシー債やCPなどリスク資産の買い取りを進める方向に舵を切ったわけだ。

日銀総裁「日本経済は当面停滞」 過度の利下げには警戒

白川日銀 総裁、「量的緩和」を否定 〔AFPBB News

 マスコミの曖昧な「使い方」により、金融政策報道に混乱が生じているため、ここで「量的緩和」の定義について整理したい。昨年12月22日の日銀総裁会見では、日米の金融緩和に関して「大量の資金供給は、事実上の量的緩和政策ではないか」との質問が飛んだ。しかし、白川方明総裁は「FRBも日銀も量的緩和政策を採用していない」と突っぱね、大学のゼミナールを思わせる論理的説明を加えて否定した。

 総裁が否定したのは、資金供給の規模は大きくても、それは金融調節上の対応に過ぎないためだ。金融政策としての「量的緩和」は、あくまで準備預金など量的指標に目標設定した場合に限られる。「量的緩和」の表現は今後もマスコミに登場するだろうが、日銀が量的緩和を宣言しない限り、調節と政策を混同したものとみなした方がよい(当コラムの「量的緩和」は金融政策に限定する)。

リスク移転、市場は身軽になるが・・・

 さて、「第3の道」である。

 1月13日、バーナンキFRB議長はロンドンで講演した。日銀がかつて手掛けた量的緩和と対比しながら、今回導入した自らの政策を「Credit Easing」と命名した。直訳すれば「信用緩和」となるが、リスクのある金融商品を抱え込み、資産の質を落とすことで緩和効果を狙う意味では、「量的緩和」ならぬ「質的緩和」という表現が妥当だろう。